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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
78/101

78.あの日③

「その散弾銃って、もう、弾切れですよね?」

 藤原孔雀はそう言い放つ。

「なのになんでそんなものを、ぼくに向けているんですか?」

 そして、畳みかけるように、

「そんなことをして、なんの意味があるんですか?」

 問う。


 思考する暇を与えずに。

 思考する間を奪い取る。


「はぁ?」

 トレンチコートの男は、そういぶかしむ表情で孔雀をにらむ。

「いきなりなんだ。はったりか?」

「これがはったりに見えますか? 確信ですよ。さきの会話でぼくは、確信したんですよ」

 不敵に笑う孔雀。

 不動産の若社長は首をかしげることしか出来ない。


「わかりませんか? 音、ですよ」

 孔雀は両手を耳に当てて、

「あなたは威嚇射撃に1発、殺害には3発、それぞれ弾を使ったとおっしゃいましたよね。それで思い出したんですよ。わずかにですが、最後の発砲のときだけ、射出音が違っていたことに」

 しくじりましたねぇ、と。

 意地悪そうに目を細める。

「それはあなたが、1番よくわかっていることなんじゃないですか?」

 孔雀はそう“カマ”をかけた。




「アフォーダンス? なんだそりゃ、そんなダンスが流行っているのか?」

 家出をする前のことである。

 孔雀は実妹の藤原美沙にそう訊いた。

 目の前には“大鏡”が置いてある。仏壇の隣――座布団の上に。


「違うよ、お兄ちゃん」

 美沙はおかしそうに笑う。

「これはJ・J・ギブソンが作った造語なんだけどさー」

 そう知覚心理学者が唱えた理論を説明し始める。

「えんぴつを見たら、ふつうの人は書く物だと判断するでしょう。

 そこには、えんぴつ=書く物だというアフォーダンスが伴っているのよ」


「はあ……」

 さっぱりわからん。

 そう嘆息する孔雀。


「イスを見たら座ろうと思う。その知覚行動には、アフォーダンスが伴うのよ」

「頭痛がする。要点だけまとめてくれよ」

「もしもある人が、えんぴつ=刺す物だと判断すれば、そこにはえんぴつ=刺す物だという、アフォーダンスが生じる」

「理論だけじゃ理解できねーよ」

「要は“大鏡”は認識をすり替える技――詳しくは、アフォーダンスを操作する技なのよ。思い込ませた者勝ちって言えばわかるかな」

「全然わからん……」

 そうこめかみを押さえて、孔雀は唸った。




 要はあの猟師に、散弾銃=弾切れというアフォーダンスが生じれば、それが現実になるということだ。

 孔雀はそのように認識していたし、それも間違いではなかった。

 だから“カマ”をかけたのだ。

 まずは誤認させること。それが大前提である。


「射出音が違ったから、なんだって言うんだ?」

「散弾銃は薬莢(やっきょう)がすくなくなってくると、自然とガス圧が高くなり、発砲時、長く残響が留まるようになります。それが4発目には顕著に現れていました。

 ぼくのような素人でも判断出来るくらいですから、それが証拠としてあげられます。

 以上のことから、弾切れと考えて、まず間違いないでしょうね」


 こんなときに限って頭がよく回る。

 よくもまあ、こんなデタラメが思いつくもんだ。

 孔雀は苦々しい感情を飲み込んで、そうブラフをかました。

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