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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
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77.あの日②

「な……なにも見てないですよ。ぼ、ぼくは」

 そろりそろりと、遮蔽物から這い出る孔雀。

 呼吸はいつの間にか浅くなっていて、声を発するのに苦労した。

 ガクガクと膝が笑っている。涙が出そうだった。

「す、すごいですねー。今のは銃声ですか?」


「ああ、クマがいたからな。撃ち殺して来た」

 男はひょうひょうとしたもので、平然と嘘を吐いた。

 そのあまりにも堂々とした態度が、孔雀の恐怖心を、さらにあおった。


 コイツは、人を殺してもなんとも思ってないのか!

 頭の奥がしびれたように熱くなる。


「く、クマが出るんですか? こ、こえーですね」

 ぎこちない笑顔を貼り付けて、孔雀は震えた。

「じゃ、じゃあ、ぼくはもう帰りますね」


「待てよ」

 トレンチコートの男は、しかし、逃がさなかった。

李下りかに冠を正さずって言うだろ?」

 思考が停止しそうになっている孔雀に、男はそう呼びかける。

「その柿の木は俺の所有物だ。お前はそこでなにをしていた?」


 はあ?

 なんだよ、りかに冠を正さずって。

 知らないよ。

 おかんむりと言いたかったのだろうか。

 きっとそうだ! 孔雀はそう推測し、

「お、お気持ちは、お察しいたします……が、ぼ、ぼぼぼくは、ど、泥棒ではありません!」


「そうか」

 男は銃口を孔雀に向ける。

 そこに一切の躊躇ちゅうちょはない。

 無機質な散弾銃が、音もなくにらみつけてきた。


 そうだ、コイツは人を殺してもなんとも思っていないんだ!


 焦る思考とは裏腹に、孔雀の手は、ある物を探り当てた。――“大鏡”である。

 ほふくするように移動したのが幸いしたのだ。

 もっけの幸いだった。


 たしかこの手鏡の用途は――

 そう思考を開始する。


 アフォーダンスを操作して、「おいッ!」

 思考停止。現実に引き戻された。


 孔雀は男の一挙手一投足を警戒しつつ、手鏡を持って立ち上がる。

「なんでしょうか?」


「見てたんだろ? 俺がアイツを殺したところを」

「殺した? ああ、クマを殺されたんですよね?」

 これはうまくごまかせるかもしれないぞ。セリフもつかえずにすらすら言えたし。

 孔雀はそう小さくガッツポーズを決めた。


「いや、人間だよ」

 しかし、トレンチコートの男は、殺人を暴露した。

 つまりそれは、生きて返すつもりはないという、証左を示す。

「俺は人間を殺したんだ」


「な……なんで」

 そう、自然と口から言葉がもれた。

 心臓がフルスロットルで暴れている。

「なんで、殺したんだよ?」


「断られたから」

 男はぼそりと言った。

「え?」

 孔雀は訊き返す。

「アイツはこの山の地主。俺は不動産会社の若社長だ」

「はあ……」

 そう頷く、孔雀。

「俺たちはずいぶんと前からこの山の所有権を争ってきた。俺はどうしてもこの土地が欲しかったんだ!」

「はあ……」

 頷く。

「だがあのじじいッ! こっちがどれだけ頭を下げても、言うことを聞く気配すら見せねえ」

「はあ……」

 頷く。

「だから脅してやったんだよ。銃口を上に向けて、ひとつ、発砲したんだ」

「はあ……」

 頷く。

「だがアイツは動じなかった。どころか猟師免許のはく奪を示唆し、俺に思いとどまるように促したんだ」

「はあ……」

 頷く。

「だから俺は銃弾を3発撃ち込んでやったんだ。アイツの眉間にな」

「はあ……」

 男の犯行動機をすべて聞き流し、孔雀は口を開いた。

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