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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
74/101

74.大鏡の秘密(後編)

「なあ、美沙ちゃん」

 小さいカップからは、濃密な香りとともに湯気が立ち上っていた。

 正二はキャラメル色をした液体をゆっくり流し込む。

 凝縮された苦みが、鼻から抜けた。

「馬鹿な俺にもわかるように教えてくれよ。大鏡の能力は、他人の認識を体現する“だけ”なのか?」


「理解が早くて助かります」

 美紗は品のある笑いをした。

「もちろんそれ“だけ”じゃありません。有機物には意思があるから、対象者がそのように認識しなければ効果があらわれないけど……」

 ホットココアを口に運んで。

 呼吸を整える。

「無機物に対してはその限りではない。つまり」

 嬉しそうに指を立てて。

「大鏡の前では、炎熱系の技も、通用しないんです」


「なっ!」

 口を開いたら舌がピリピリした。

 正二は忌々し気にしかめ面をすると、

「それじゃあ、灯火は」


「羽柴灯火は、たしか、炎を出したりするんですよね」

 髪の毛を手櫛でとかしてから。

「でも、大丈夫だと思います」

 女子小学生は目を細めた。

「炎熱系だってバレなければ、ここぞという場面で不意を突けるかもしれませんし」


「あいつはそんなに頭が良くねーよ」

 自嘲気味に笑って下唇を噛むと。

「ごめん、じいちゃん。義弟がピンチなんだ」

 そう富士宮正二は駆け出した。

 入口のベルが無機質な音を立てて、客を見送る。


「義弟?」

 虚空は不意の単語に耳を疑ったが。

 そんなことを気にしていられる余裕はない。

 一刻も早く追わなければ、灯火はやられてしまうのだ。

 南家との決戦を前にして、余計な戦力の損耗は避けたい。

「その話はあとで聞かせてもらえますか? 今は彼らを追いかけたいので」

 白内障の最年長者に断りを入れて。

 西家の彼女は喫茶店を飛び出していった。


「なにを言うか。ワシも行くわい」

 よっこらせと、杖をついて立ち上がる老人。

「陣頭指揮を取れる人がおらんと、貴様らだけじゃ作戦の1つも練れやせんじゃろうが!」

 悪態を垂れながらも、足早に出口へと進んで行く。


「すごいんだね。羽柴灯火って」

 しばらく経ってから美沙は口を開いた。

 窓の外には正一の姿すらなくなっている。

「敵役みたいな発言ばかりしてたのに、みんな彼のことを心配してるんだね」


「なあ、美沙」

 すっかりぬるくなったホットコーヒーを片手に。

「お前が羽柴灯火を嫌いな理由は、彼が典嗣を氷漬けにした犯人だと思っているからだろう?」

 保険屋は時間をかけてまばたきをした。

 まっすぐに回答者の顔を見据える。


「わかってるよ。犯人じゃないことくらい」

 気持ちの整理はまだ出来ていないが、とりあえずしゃべる。

 スカートの裾を長くつまんでいたせいで、しわになっていた。

「でもたとえ彼が被害者であっても、典嗣を危険な目に遭わせたことに変わりはないよ」


 藤原道草はうんうん頷いた。

「美沙にとって典嗣がかけがえのない存在であるように」

 ウエイターが空になったカップを下げる。

「灯火くんにとってみたら羽柴槐さんは、同じくらい大切な存在だったはずだよ」

 頭を掻きながら、叔父は続けた。

「その大事な人を、彼は失ってしまったんだ。彼は美沙よりもずっと辛い立場にいる」

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