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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
73/101

73.大鏡の秘密(中編)

「たとえば相手が――俺の肉体は鋼のように固いんだぞーって、誇示したとするじゃない?」

 美紗はボディービルのポーズをとって立ち上がる。

「こっちがそれを信じちゃうと、本当に相手の身体が鋼のように固く感じるっていう話なんだけど……」

 こんな説明で、わかったかな?

 そう不安げに周囲を見渡す彼女。


 ひとりの青年が間抜け面をして、うんうん頷いていた。

 美沙は意識的に目線を逸らし。

 ソファーに深く腰掛ける。


「なるほどな」

 しかし非常にも、その青年は言葉を発してしまった。

「つまりそいつは、自己催眠を使って戦闘するタイプってことだろ?」

 灯火はふふん、と鼻を鳴らして。

 アイスコーヒーを飲んだ。


「全然違うよ」

 美沙はこめかみに指を当てて、鼻白む。

 どーしてわかんないかなあ、と小声がもれた。

 まぶたを閉じる。幼い顔に寄ったしわが深い。

「全くこれじゃあ馬鹿の耳に念仏じゃない。あれ、馬鹿に説法だったかしら?」


「俺は馬でも釈迦でもねーぞ」

 声を荒げて。

 灯火は思わず立ち上がった。

 つい喧嘩腰になる。


「へえ、そうなんだ」

 しかし美沙も負けてはいない。

「それはそれは、寝耳に水でした」

 と。

 悪意のこもった表情で、嫌いな人をにらみつける。


「ふざけやがって」

 顔中に血管を浮かべて。

 青年はテーブルを強く叩いた。

 振動でグラスの液体が揺れる。

「たしかに俺は釈迦じゃねェよ! だけどな――」

 弓を引くように。

 灯火は腕を真後ろに引いた。

「お前をおしゃかにするくらい、造作もねえんだよ!」


 パンッと。

 乾いた音が店内に響いた。

 瞬間――世界が暗転する。


「いい加減にしなさい。相手は年端もいかない女の子よ」

 虚空は細くしなやかな指を、ゆっくり動かした。

「次やったら、鞭打(ビンタ)じゃ済まないわよ」


 顔面にびりびりと伝わる衝撃に。

 灯火は腰を抜かしていた。

 唇の端が切れた。そう舌触りで判断する。


「そうじゃのう。ちと粗相が過ぎるぞ、ハイビスカスの孫よ」

 正一は白い目で灯火を見下ろした。

 そこには目に涙をためて、必死に泣くのをこらえている青年がいた。

 すでにその双眸は赤い。


「くっそ!」

 青年は唸った。

 雄弁に語りかけてくる沈黙。

 その圧力プレッシャーに押しつぶされないために。

 まるで四面楚歌だ。周囲が敵だらけに見える。


 灯火はここでようやく、自分の保護者がいなくなったことを思い知った。

 祖父がいたら、きっとなにかしらのフォローはしてくれたはずだ。

 あまりのやるせなさに顔が歪む。


「俺のせいで、じいちゃんは……」

 気が付いたら清潔な床を殴っていた。

 拳骨が砕けそうなほど、痛烈なパンチだった。

「ちくしょう!」


 なぜだか全身が昂ぶって。

 高調していくのを感じる。

「覚えてろよ。テメェら全員……」

 そう震える声で、言葉をつむぐ。

 弱みを見せないつもりが、早くも露呈してしまった。

 悔しさに視界がにじむ。


「その大鏡の所有者とやらの生首掻っ切って」

 まばたきだけで。

 抑えていた液体がこぼれ出る。

「見せつけてやるよ。俺様の実力を!」

 犬のように吠える。

「そうやっていつまでも仲良しごっこをやっていればいいさ」

 最後は引かれ者の小唄になっていた。

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