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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
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71.藤原道草の説得

「道草のおじちゃん。私は反対だから!」

 藤原美沙は声を荒げた。

 膝に乗せた拳が、小刻みに揺れている。

「羽柴家との同盟なんて、認めない」


 強い拒絶を示す色が、N総合病院の休憩室に広がった。

 藤原道草は困ったなぁと頭を掻く。

「どうしてそこまで嫌悪するんだ?」


「それは――ッ」

 言いかけたところで、美紗は口をつぐんだ。

 考えてみれば、羽柴家に対する積極的な恨みはない。

 そう決まりが悪そうに居住まいを正す。

「それは、典嗣いとこが痛い目に遭わされたから」


「そうか。優しいんだな、美沙は」

 道草はいたずらっぽく笑った。

 そして黒い鞄から保険の資料を取り出す。

「厳しいことを言うようだが……」

 姪に向ける目つきが変わり。

 声のトーンが一段階下がった。

「これは美紗の兄さんに殺された人の」

 丸テーブルに肘をついて、指を絡める。

「保険プランだ。彼はまだ若く将来があった」


「えっ?」

 美紗の眉は上下し。

 目が大きく膨らんだ。

 なにかを発しようと開いた口は、言葉を失って閉じられる。


「それでも遺族は、懸命に生きているよ」

 保険屋はスーツの胸元をぎゅっとつかんだ。

 しわが寄る。

「あやまちを犯すのはいつだって人間だ。だったらそれを許してやるのも、同じ人間であるべきなんじゃないのか?」


「……ねえ、道草おじちゃん」

 パック牛乳にストローをさして。

 少女は訝しそうに眉根を寄せた。

「なんでそんなに羽柴家の肩を持つの? やつらのせいで典嗣は死ぬかもしれなかったんだよ?」


「あのな、美紗……」

 道草は保険の資料をビジネスバッグにしまった。

「職業上、俺はいろんな人間を見てきたよ。外面が良いだけの人間や上辺だけの人間。馬鹿な人間や聡明な人間……」

 顔の前で指を組んで、彼は続ける。

「中でも羽柴家(東家)の連中は、馬鹿ばかりだった」

 どこか誇らしげに、表情を綻ばせる保険屋。

「やつらはいつも身内のことしか頭にない。亡くなった羽柴槐さんだってそうだ。孫のことしか頭にないから、大鏡の所有者を平気で相手に回したり、ひいては戦闘後にもかかわらず炎熱病をもらい受けるなんていう、荒業が出来たんだ」

 ふうっと肩をすくめる。

 老人の死亡については、富士宮正一から聞かされていた。

「富士宮正一さんだってそうだ。美紗の兄さんを奪還できたら、東家と同盟を結んでやってほしいと持ちかけてきた」


「よくわからないよ。道草おじちゃんはなにが言いたいの?」

 美紗は勢いよくストローを吸った。

 小さなパック牛乳はみるみる圧縮されていく。


「自分のためじゃなく、本気でだれかのことを思いやれる人間は……」

 あどけない顔をした姪に、道草は言った。

「信頼できるんだ! 彼らは良い家族だよ」

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