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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
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67.羽柴虚空の過去③

 羽柴風香はハンザツ同盟を口実に。

 東家と南家の当主を招集した。

 彼女は手短に虚空がさらわれたことを説明すると。

 虚空の身代金が、西風扇及び東炎扇――もしくは南土扇であることを明かした。


「そういう理由だから、扇を貸してくれないかしら」


 同盟国なんだから和談は成立しやすいはず。

 風香はそのように判断したが。

 現実はそんなに甘くはなかった。


「話はおおむね理解した。だがしかし、それは出来ぬ相談だ」

 羽柴森太郎はかぶりを振って答えた。

「だってそうだろう? 四羽扇は互いの均衡を保つために必要な武力。抑止力なんだ。それを放棄するということは、反撃のための橋頭堡きょうとうほを自ら断つに等しい。いくら同盟国の申し出だとしても、さすがにそれは容認しがたいところがある」


「そう……ですか。そう、ですよね」

 無理に笑おうとしているのか、羽柴風香の顔が歪んだ。

 強く固めた拳に熱いしずくが垂れる。

 押し殺した嗚咽。小刻みに震える背中。


 そんな彼女から目を背けるために。

 森太郎はタバコに火をつけた。

 大きく吸って。白い煙を真上に吐き出す。


「辛いのはわかるよ。でもさぁ……」

 森太郎は困ったように。

 ちらりと羽柴炎暑に目を向けた。

 彼は腕を組んで目をつむっている。

「でも、さぁ……」


「あ、わかりました」

 明るい声で風香は言った。

 それに反して表情は暗いままだ。

「こういうのはどうでしょう? 暫定ざんてい的に西家と東家が扇を手放したとしましょう。そうしたら西家と東家は政治には参加しません。もちろん戦争にも介入しません。その代わり、民意の代表である南家が御意見番になるっていうのは……」


「それも却下する。民意を反映させる場合、必要になるのは武力だ。ここで我々が四羽扇を失っては、北家がますます磐石な地位を築き上げてしまう。それこそが我々の危惧していた『扇狩り』の実態だろう? たとえ南土扇を死守できたとしても、形勢が北家に傾くことに相違はない!」


「そうですか?」

 長きに渡って沈黙を保ってきた男が。

 ようやく――口を開いた。

「僕は構いませんよ。東炎扇を差し上げても」


「なっ――!」

 怪訝そうな顔で。

 森太郎は、炎暑をにらみつけた。

「どういうつもりだッ!!!!」


「森太郎さん。同じ子を持つ親として、冷静に考えてください。一寸先もわからぬ政治がどうこうよりも、まずは人命が優先ですよね? 違いますか?」


「ふざけるなッ!!!!」

 森太郎は唾を飛ばして叫んだ。

 肩で荒い息をして。タバコはどこかに投げ捨てた。

 歯をギリギリと軋ませて。血走った目を向けてくる。

「なにが人命優先だ。冗談じゃない。ここは一時の感情に流されるよりも、涙を飲んででも、後世にバトンを託すべきじゃないのか?」


「そうですか。では――」

 では――これで最後です。

 と。

 炎暑は最後通牒さいごつうちょうを口にした。

 納得してもらえなければ、南家との同盟は諦めるつもりだ。

「自分のお子さんが同じような目にあっても、今と同じセリフが言えますか?」


「えっ?」

 一瞬間、森太郎は怯んだ。

 俺は自分の息子を見殺しに出来るのだろうか?

 それを考えてしまう。

「言えるに決まってるだろッ!!!! それがどうした?」


「わかりました。あなたとはわかり合えません」

「はあっ!?」

「同盟を破棄します」

「なんで?」

「犠牲の上に成り立つ平和など、しょせん幻夢まぼろしに過ぎません。僕は恒久の平和を所望する。それだけです」

「なにを言ってるのか、サッパリわかんねえよ」


 興奮する森太郎の耳元で。

 炎暑はそっと――ささやくように言った。


「テメェは親じゃねえッ――!」

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