57.大鏡の威力
羽柴槐は重心を落とし、敵との距離を一気に詰めにいった。
対する藤原孔雀は手足をブラブラさせながら、余裕の笑みさえかましている。
「てぃッッッ!!!!」
即座に間合いに入った槐は。
4指を固めて貫手を放った。
矢のように鋭い一打が、湿った空気を切り裂く。
狙うは両の目。すなわち眼球だ。
「うわっ。速ぇッ!!!!」
首を傾げて攻撃をかわそうとする孔雀。
が、貫手が顔面をかすめた。
右ほほが裂け。
血が垂れる。
「なかなかやるじゃねーか」
手の甲で血をぬぐい、後ずさる孔雀。
しかし老人は手を緩めない。
右ローキックで、注意を下に向けさせ。
裏拳で右側頭部を叩きつけた。
「ぐぅぅ……」
孔雀はあわてて距離を取った。
追撃を恐れたからだ。
こめかみを強打されたため、脳が揺れている。
早くも苦悶が表情に出始めた。
「口ほどにもないのう。お主は本当に藤原孔雀か?」
「なめてんじゃねーぞ、くそじじいッ!! 片耳がないくせに!」
孔雀は大声で威嚇するが、まるっきり迫力がない。
しかし――それもそのはず。
頭蓋が割れんばかりの警告を発していて、孔雀はそれどころではなかったのだ。
「投降しなさい。お主程度ではワシには勝てんよ!」
老人は鋭い眼光を投げつけた。
「黙れ黙れ黙れ! 老いぼれのくせにうるっせーんだよ!」
そう言って。
全速力で疾駆する孔雀。
槐はじっくりと腰を落として迎え撃つ姿勢を見せた。
「防御なんかしても無駄だ! その両腕へし折られてぇか!」
孔雀は叫びながら、助走の勢いを借りて突っ込んだ。
左拳が老人のガードにヒットする。
岩のように固い、頑強に鍛えられた筋肉だった。
が、そんなことは“関係ない”。
大鏡の能力を以ってすれば、相手の肉体強度など枝葉末節に等しいのだ。
攻撃さえ当たればそれで良い。
「ぐぬぅ……」
槐の左腕を激痛が襲った。
肘から下が麻痺したように動かなくなる。
まさか本当に――折られたのか?
嫌な予感が頭をよぎる。
追い打ちをかけるようにして、孔雀の右腕が迫ってきた。
避けられない。
喰らった。
単純なボディーブローだった。
ノーガードで腹部を強打された。
防御が追いつかない。
脳がうまく機能してくれない。
孔雀の打撃は槐の腹筋を貫通して。
脊髄まで波のように響いた。
「ぁぁ……ッ!!!!」
声にもならない悶絶。
背骨が軋むような感覚。
身体中の液体が、のど元までせり上がってくる。
嘔吐……。吐血……。
槐はその場に倒れ伏した。
「くたばれ、くそじじいッ!!!!」




