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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
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56.暗雲低迷

 暗澹あんたんたる鈍色の雲が、頭上をたゆたっていた。

 ときどき夕日が顔を見せては明るくなるが。

 晴れ間はめっきりと減っていた。

 陽気で生暖かかった風は、いつしか肌を貫くような冷たさを含んでおり。

 不気味に聳え立つ三十面鏡峠は、真っ黒なベールに包まれているようだった。


 暗雲低迷したこの舞台に、羽柴槐は一抹の不安を感じたが。

 このままなにも出来ずに引き下がっては、藤原家との和談がさらに難しくなる。

 そうやって自分を奮い立たせて、重い足取りを峠の入り口に向けた。

 “立ち入り禁止”のロープをくぐって、らせん状に続く坂道を上る。

 頂上に近づくにつれて外灯は減少し、山の空気もより一層すごみを増していた。


 ようやく中腹に差し掛かった頃。

 槐は1軒のあばら家を発見した。簡易的な木製の小屋だ。

 家具や調度品はなく、床にはホコリが溜まっている。

 人が住んでいる気配はない。どうやら廃屋のようだ。

 老人はそれでも室内を検分し、沈思黙考を重ねてから屋外へ出た。

 いまだ人の気配は感じられない。

 藤原孔雀なる人物はどこにいるのだろう――虎視眈々と好機チャンスを狙っているのだろうか。それとも、もうここにはいないのだろうか。

 足先を進めるにつれて、肌寒さは増していく。通り抜ける風が冷たい。

 にもかかわらず、大粒の汗が背中を伝った。

 神経をすり減らしている証拠だ。


 山頂に近づくにつれて、茫洋としていた不安が形になって襲い掛かってきた。

 ここはらせん状に続く上りの一本道だ。分岐路もなにもない。

 だからもちろんいらないはずなのだ。こんな物など。

 それはまるで――本来の役目が柵であるかのように密集し。

 道路の両脇をガッチリ固めていた。


 カーブミラーの行列である!

 千本鳥居よろしく、奥まで間断なく繋がっていた。


「なんじゃ……これは?」

「鏡で作ったテメーの墓石だよ。好きな墓場を選びな」

 背後から平坦な肉声が聞こえた。

 あわてて振り返る、槐。

「あせらなくていいぜー、じいさん。どうせお前は――死ぬんだから」


 カーブミラーという単語だけで十分だった。

 相手の容姿を気にしなくてもわかる。

 鏡を使う血族といえば、“藤原家”しかいない。

 つまり目の前にいるこの男――背が高くて、うつろな目をしたこの男は。

 藤原孔雀だ!


「あんたはもう、檻の中のライオン同然なんだよ。じいさん。生殺与奪の権は俺が握っている!」

「ほう。威勢の良い猛獣じゃな。ちと折檻が必要かのう?」

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