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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
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54.炎熱病

「炎熱病……じゃな」

 低く落ち着いた声で、羽柴槐はそう言った。

 その表情には影が差しており、明暗のコントラストで感情がうかがえない。

 陽光を背にして椅子に座る祖父を。

 ベッドに身体を横たえながら――羽柴灯火はちらりと見た。

 祖父はどことなく物憂げなたたずまいだった。


「炎熱病ってなんだよ?」

「炎熱病というのはじゃな」

 感情を殺した――抑揚のない声音で。

 老人は言う。

「古くから炎扇の所有者が患ってきた――奇病じゃよ」

「奇病……だと」

「元来、人間が発する熱量には限界があるじゃろ。高熱を発症しても、40度を超すことはめったにない。しかし内的エネルギーを習得した灯火は、人間の限界を超えた熱量を使いこなせるようになったんじゃよ」

「ああ。それはなんとなく理解できる」

 骸骨少年――藤原典嗣を打ち破る際、手に力を込めた。

 相手の血液が沸騰するイメージを、鮮明に思い浮かべながら。

 そうすることによって、彼は吐血して倒れたわけだが――そのときに消費した熱量は常人の比ではなかっただろう。


「平熱36度の人間が、体温を50度や60度まで上昇させたら、どうなると思うかの?」

「ふつうは死ぬだろうな」

「その通りじゃ。まあ、死なないために内的エネルギーを用いるわけじゃが、この内的エネルギーというのがくせ者でのう。少しでもコントロールを誤れば、今回のように体中を炎熱によって蝕まれるというわけじゃ。これが炎熱病の概略じゃよ」

「うーん、まあ、なるほど」

 とりあえずは納得。溜飲が下がった。

 病名がわからず、ひたすら点滴を打たれているよりは、解説があるだけマシだ。

 マシなんだけど――

「で。炎熱病ってどうやったら治るの?」

「目には目を、歯には歯を。――炎熱には炎熱を。自身の内的エネルギーを使って、体温の過剰な上昇を食い止めるほかないの」

「そんなこと言ったてよー。意識がもうろうとしてるっつーのに、熱分散なんて出来るわけが……」

「もしもこのまま病が進めば、末端神経から壊死えししていき、手足はもちろん、全身が炭のように黒くなって死んでしまうんじゃ。やるしかないんじゃよ」

「はぁ……」

 灯火は深くため息を吐いた。

 こうやって会話をしているだけでも苦しいというのに、今度は内的エネルギーまで使役しなければならないのか。頭が痛い。きっと炎熱病のせいだけではないだろう。

「どうやら病気は待ってくれないようじゃの」

 槐は点滴用チューブが刺さった灯火の手を見つめた。

 爪の中が、内出血したように黒ずんでいた。

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