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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
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52.過保護な教育

 N総合病院の休憩室は、陰鬱な空気に満ちていた。

 遮光された室内はうす暗く。

 蛍光灯の光がリノリウムの床に虚しく反射するばかりだった。

 

 そんな中――藤原道草は丸テーブルに両肘をついて、頭を抱え込んでいた。

 煌々と照る月明かりが、ちらりちらりとブラインド越しに姿を現す。

 道草はため息を吐いて、上着をイスの背もたれに掛けた。ネクタイを緩めて、Yシャツのボタンをすこし外す。首元が楽になった。

 ――楽になるほうが、余計つらかった。

 今の自分には苦しいくらいがちょうどいいのかもしれない。


「典嗣……ごめんな。お前をこんな目に遭わせてしまって。おれは、父親失格だ」

「そんなに思い悩むでない、保険屋よ。こうなったのは、お主のせいではなかろう」

 道草は年配男性の言葉に顔を上げた。

 羽柴槐だった。

 彼は紙コップを丸テーブルに置くと、

「ホットコーヒーじゃよ。今夜は長くなるじゃろうからな」

 そう言って自分のコーヒーをすすった。


「なんの用ですか?」

 物思いにふけっていたせいか、老人の来訪に気が付かなかった。

 なるべく驚きを顔に出さず、ポーカーフェイスで質問をしてみる。


「灯火の見舞いが済んだからの、これから帰るところじゃ」

「ああ、そうでしたか」

 保険屋は物憂げに視線を落とし。

 ビジネス鞄から手鏡を取り出した。

 割れんばかりに柄を握りしめる。拳が震えた。「せめて……」

「ん? なんじゃ」

「せめて1時間以内に典嗣の所在が分かっていれば、こんなことにはならなかったんです。

 今鏡を使って、典嗣の身体を回復――いや元通りに復元できたはずなんです」

「復元――か。人を物みたいに扱うのは感心しかねるのお。それがたとえ、比喩であっても」

「すいません」

 空気に向かって謝罪をしているかのような。

 心のこもっていないお詫びをして、道草は頭を掻いた。


 すると。


 ガタガタガタガタ……。

 急に横滑り式のガラス戸が揺れ始めた。

 槐も道草も、地震の発生を警戒したが、震源地は思いのほか近かった。

 というか、走って移動して来たのだ。

 ガラス戸を開けると、その人物は甲高い声音で。

「道草のおじちゃん。典嗣が集中治療室から出てきたよー」

 休憩室内に反響するボリュームだった。


「お嬢ちゃん。ほかの患者さんの迷惑になるから――」

 老人は彼女の言動をたしなめようと口を出したが、保険屋がそれを制した。

 彼は小さい声で、めいですと告げて、

「わざわざ教えに来てくれたのかい。ありがとう」

 藤原美沙と一緒になって院内を走っていった。

 ガラス戸が大きく唸ったが、足音が遠のくにつれてそれもなくなった。

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