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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
50/101

50.藤原美沙の優越

 この惨状を傍から見れば、地獄絵図という他なかろう。


 ひとりはあえぐような息づかいに加え、赤黒い液体を土に染み込ませながら倒れていて。

 もうひとりは全身から脂汗が噴き出し、胸骨を押さえて苦悶の表情を浮かべている。

 その隣では尋常ならざる吐血をし、さながら血の池と化した水溜まりに身体を突っ伏す者がおり。

 最後のひとりは感冒患者なのだろうか、ぶるぶると小刻みに震えていて、起き上がろうにも力が入らない様子だった。


 このような惨憺たる有り様を見て。

 愉悦に頬をほころばせる少女がいた。

 彼女は。

 鳩を肩に乗せ、"水鏡"を使役する女子小学生。

 藤原美紗である。

 ふふん、と。

 得意気に鼻を鳴らして。

 土手の上で腕を組み、オレンジ色の濃い光に照らされた少年達を見下ろす。


「おーい、いたぞーっ!」

 遠くでそんな声がしたかと思うと。

 男子小学生が5,6人集まり、こちらに向かって駆けてきた。

 汗を光らせて走る彼らは、なぜか慌てているようだった。

 美沙の前までたどり着くと、膝に手を当てて、ぜぃぜぃと荒い呼吸を整える。


「なにかしら?」

 澄ました顔で、そう尋ねる美沙。

 勝ち誇ったような、いやらしい声音になった。


「なあ……」

 と、男子のひとりが表情をひきつらせる。

「ここでなにがあったのか、教えてもらえねーか?」

「ええ、いいわよ」

 鳩の少女は腰に手を当てて。

 すこし偉ぶってしゃべり出した。

「まずは、そうね。

 そこで伸びている男の子達はみんな、ひとり残らず、藤原典嗣にやられたのよ」


「なにっ……」

 驚嘆の声がもれる。

 そのリアクションに美沙の自尊心は刺激された。気持ちが良い。気分爽快だ!

「みんな……だって? 山田くんや、ハルキさんも、みんな典嗣がやったのかよ」

 少年は拳をわなわな震わせている。

 それを見て、美沙は胸がすくような気持ちになった。

「そうよ」

 山田も、ハルキも、だれのことなのか、美沙にはさっぱりわからない。

 しかし、典嗣は全員を倒したのだ。

 肯定しても問題はないだろう。

「震えているようだけど、大丈夫?」

「ああ、平気だ。ありがとう。えーっと名前は……」

「私は藤原美沙よ」

「そうか、美沙って言うのか。俺は小池卓也だ。よろしくな」


 小池卓也と名乗った少年は。

 集団を引き連れて土手から下りると。

 山田和樹を抱き起しにかかった。山田は気を失っている。

 呼吸が苦しそうだ。のどを損傷しているのかもしれない。

 赤黒い液体を口から垂らしている。

 よほど過激な戦いだったのだろう。


「すまねーが、近くの人を呼んで来てもらえないか?」

 小池は必死な表情で、少女に向かって叫んだ。

「念のために救急車も呼んでもらえるとありがたい」


「わかったわ」

 2つ返事で美沙は駆け出す。

 その足取りは軽い。

 これでもう、典嗣がいじめられることはないだろう。

 そう思うと、どこまでも走れそうなほどに元気が湧いてきた。

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