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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
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48.羽柴家vs藤原家⑥

 羽柴家が、藤原家を狙った理由。

 それは結局わからずじまいだった。


 だけどそれはーーと藤原美紗は思う。

 だけどそれは、どうでもいい。

 どんな理由であれ、身内を傷つけた(やから)は許せない。


「死んじゃえッ!!」

 鳩の少女は、羽柴灯火の顔面に照準を定め。

 高く掲げた足を、降り下ろそうとした。


 が。

 まさに、そのとき。


 少女と対面するように直立していたーー藤原典嗣が。

 ゴボゴボッと、せき込んだ。

 バケツの水をひっくり返すような勢いで。

 美紗に浴びせかけるように、吐血したのである。


「えっ?」

 突然のことだった。

 唐突に視界がふさがったのだ。

 髪の毛から、赤い滴がしたたり落ちる。

「え、えっ?」

 蒸せ返るような、朱色の液体は。

 湯気が立つほど、熱かった。


「熱ちぃいいい!!!!」

 振り上げた足をゆっくりと下ろし。

「なにが起きたぁあああ!!!!」

 叫ぶ。

 口の中に鉄分が流れ込む。

 まずい。熱い。気持ち悪い。


「教えてやろうか」

 低くこもった声でそう訊かれた。

 灯火だった。

「なぜこうなったのか、教えてやろうか」


「はぁ?」

 腕をつねってやけどに耐えて。

「なにを言っちゃってるの?」

 と、美沙は言い放つ。

「今のはただの発作よ。あなたの攻撃なんかちっとも効いてないんだから」

「あぁ、そう……」

「ええ、そうよ。脅しなんか怖くないんだから」


 ははっ――と。

 鼻で笑う声が聞こえてくる。

「じゃあさ。もう1回同じものをみせてやるから、今度は離れて見てろよ」


 ああ、頭に血が上るってこういう感じなんだ。

 と。

 美沙は理解した。

 今すぐこの男をぶっ殺したい!


 袖でごしごしと目元をぬぐって。

 怨敵をにらみつける。


「ようやく冷静になったか」

 灯火はそう言って、説明を始めるが。

 美沙の頭は、十分すぎるほど煮えていて。

 今にも爆発しそうだった。

「骸骨少年を吐血させたトリック。それは、熱だ」


「熱?」

 意外な言葉に、動きが止まってしまう。

「どういうこと?」


「水を入れたやかんに火をかけたまま、放置したらどうなる?」

「どうなるって、それは沸騰するんじゃないかな」

「沸騰しすぎたら、水がこぼれるだろ?」


「えっと……」

 眉間にしわを寄せて、考える。

「まさか、そういうこと?」

 美沙は脇の下に、汗が伝うのを感じた。


「その通り。骸骨少年の皮袋からだを、やかんとして考えたわけだ。

 あいつの足をつかんだのも、かかと落としを嫌ったからというよりは、そこを起点に熱が加えられるんじゃないかと思ったからだ」


「…………ッ!!!!」

 戦闘の経緯を思いだし、言葉に詰まった。

 なるほど、薄弱ではあるものの一応の筋は通っている。


 よくもまあ、あの劣勢からひっくり返したものだ。

 窮鼠(きゅうそ)、猫を噛む。


 悔しいが、ぐうの音も出ない。

 美紗は苦し紛れに、唇を強く噛んだ。

 皮膚が破けたのか、血の味が口内を満たしていった。

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