46.羽柴家vs藤原家④
「ひとつだけ、質問をしても良いかしら」
路傍の石ころを見るような、無関心な瞳で。
藤原美沙はそっと呟く。
「なんで藤原家を狙ったの?
同盟を持ち掛けてきたのは、あなた達でしょう?」
そんな美沙の問いかけに――羽柴灯火は。
「はあっ?」
と。
甲高い、場違いな声で応じた。
「ちょっと待て! 意味がわからねーよ」
藤原家。
狙った。
同盟。
美沙の言葉を。
頭の中でぐるぐると反芻するが。
心当たりが全くない。
「なんの話……。ぐわっ!!!!」
顔面を踏まれた。
骸骨少年ではない。
美沙の靴だ。
「さあ、早く答えなさい。
さもないと、命の保証は出来ないわよ」
「だから知らねーよ。バーカ!」
「そう……。それは残念ね」
美沙は高々と足を振り上げた。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」
その男は深々と頭を下げた。
頭髪は短く清潔で、上下を黒のスーツで整えている。
いかにもな営業マンといった風貌だ。
「私は藤原道草と申します。本日は保険の勧誘という名目でお邪魔しました」
「なんじゃ、お主が藤原家の当主か」
保険屋と名乗られるや否や。
即行で門前払いを敢行した羽柴槐だったが。
「だったら上がりなさい」
と、客人を居間に通した。
フローリングにはカーペットが敷かれていて。
卓袱台越しに2つ、座布団が置いてあった。
「まあ、座りなさい」
そう槐に促された保険屋は。
端正な挙措動作で足を折り畳むと。
素早く老人を観察した。
服装は作務衣に、ニット帽という奇妙な出で立ちであり。
筋肉で覆われた分厚い胸板が、和服の襟元からのぞいている。
背中は曲がっておらず、足取りも軽かった。
性格は少々短気なようだが、偏屈なじいさんという印象はない。
足の指が地面を引っ搔くように丸まっているのは、武道ですり足を習得したときの名残といったところか。これで耳も丸まっていれば、レスリングや柔道の経験者であると推測できるが、今はニット帽によって隠されているので、定かではない。
と――ここまでは保険屋としてのひとつの癖だ。
迅速に契約をこぎ着けるための、一種のスキルでもある。
「羽柴家と藤原家の同盟についてですが――」
スーツのネクタイを締め直し、道草は言った。
その表情は冷淡そのものである。
「締結いたしかねます」
そして老人の反応をうかがう。
人間は表情を作るのに1秒かかるといわれており、約0.2秒間は無防備になるというが。
果たして――槐の表情は、瞬間的にではあるが、くもっていた。
「どうしてじゃろうか?」
そう問うてくる。
戸惑いを押し殺したときに出る声音だ。
「それはですねえ」
道草は脇に置いたビジネスバッグから、鉛製の黒い筒を取り出した。
「河川敷を凍結させて、藤原家に宣戦布告したのが――」
拳銃の撃鉄を起こして、銃口を羽柴槐に照準する。
「羽柴家だからですよ」




