45.羽柴家vs藤原家③
人間はふだん全力を出しているつもりでも、100%の力が出せるわけではない。
100%の力を出すことによって、筋肉が切れたり、骨が折れたりしないよう、無意識のうちに脳がリミッターをかけているからだ。
ただし――脳に直接干渉できる水鏡は。
そのリミッターを。
無理矢理に解除することが出来る。
「なるほど。それがパワーアップの全貌か」
「ええ、そうよ。恐れ入ったかしら」
羽柴灯火は――藤原典嗣の苛烈な猛攻を凌ぎつつ。
必死で言葉をつむいだ。
打撃に対する反応が、徐々に鈍くなる。
腕がしびれてきた。
ガードが遅れる。
距離を取らないと、まずいことになる。
まずは、退けッ!
後方に大きく跳ぶ、灯火。
急いで鳩の少女を探す。
――いた。
藤原美沙は涼しげな顔をしていた。
まるで、対岸の火事を眺めているかのように。
「悪いことは言わねえ。早く典嗣を元に戻せ!」
灯火は吠える。
冷たい川風が、うなじをなぜた。
「今さら命乞いかしら?」
「バカなことを言うな。このままじゃ典嗣の身体が壊れる!」
「そっちこそ牽強付会じゃないかしら。あんたに心配される道理はないわ」
「言う通りにし……ろ……」
弾幕のように迫る、骸骨少年の攻撃が。
ついに羽柴灯火を捉えた。
痛烈なボディーブローが。
防御の隙間を縫って、突き刺さる。
一瞬間――目の前が真っ赤に染まった。
脚に力が伝わらない。
「ぐうっ……」
ガクガクと膝が笑う。
両足では体重が支えきれない。
灯火はその場にひざまずいた。
視界の端に、典継の蹴り足が見えた。
避ける間もなく肩に直撃する。
「ぐわっ」
激痛が脳内を駆けた。
目を固く閉じて、奥歯をかみしめる。
「うぐっ」
今度は顔面に、ひりつくような熱さを感じた。
蹴られたのだ。
重心が後ろにずれて、尻もちをつく。
直後――かかと落としの雨が。
降りかかる。
「…………ッ!!!!」
肺を踏みつぶすために。
典嗣は足を振り下ろした。
何度も、何度も。
相手に起き上がる暇さえ与えず。
「コノヤロッ!」
やっとのことで、灯火は典嗣の片足をつかんだ。
束の間、攻撃が停止する。
しかし――
だれの目から見ても、羽柴灯火の敗北は決定的だった。