39.藤原美沙、謎の復讐!?
「くっそー。だいぶ遅れた」
追い炊き修行を終えた、羽柴灯火は。
骸骨少年こと、藤原典嗣が決闘すると宣言した、あの河川敷へと急いでいた。
内的エネルギーの消耗は予想以上に激しく。
いざ鍛錬が終わってみると、身体だけでなく、心もずしんと重くなった。
まるで寝不足のときのように、頭がぼーっとして。
なにをするにもやる気が起きない。
今現在、こうやって走っていられるのは。
ほとんど奇跡に近かった。
「やべぇ……走りながら眠っちまいそうだ」
夕日を背に受け、住宅街を横断しながら、灯火はつぶやいた。
「私と直接戦いたい?
アリがタイになるような発言だけど、それは困るわ」
意味の分からない比喩を使って。
藤原美沙はやんわりと断った。
「だって私が憎悪を燃やしている対象は、羽柴灯火なんだから。
彼さえどうにか始末出来れば、あなたで憂さを晴らす必要はなくなるわけだし、べつにあなたと戦う理由なんてないわ。
しいて言うなら、見せしめよ。この藤原家の逆鱗を逆なでしやがった、東家への復讐。それを果たすために、まず前段階としてあなたの鎖骨をぶっ壊すのよ。外堀から徐々に埋めていってあげるわ」
と、サディスティックに口角を上げる美沙。
「本当にまあ、意味のわからねーことを、ペラペラペラペラ、うっせーんだよ!」
橋場ハルキは。
地面に手をついて、よろよろと立ち上がると。
典嗣の背後に身を隠している美沙を、睥睨した。
「どうせ、テメーで突っ込んでくる度胸のねー弱虫ってことだろ? 御託は良いんだよ、御託は」
ハルキの膝が、震える。
掌底をもろに喰らってしまったせいだろう。
その衝撃が足にも伝わってきたのだ。
しかし、それだけではない。
ハルキの感情を代弁するなれば。
きっと、恐怖とか、緊張とか、そういうのも混ざっていたはずだ。
沈まれ、沈まれ、と。
膝を叩くハルキだが。
足に余計な衝撃が加わったせいで。
なおさら振動は加速した。
「それなら心置きなく、ファイナルラウンドへと行かせてもらうわよ」
美沙は視線を、ハルキから典嗣に移し。
「鎖骨を叩き割りなさい、典嗣。あなたの得意な技、拳槌で」
虚ろな瞳で、典嗣は。
こくり、とうなずく。
そのチャンス。大チャンスを。
橋場ハルキは見逃さなかった。
「らあっ!」
ハルキは、典嗣の長袖。
袖口を引っ張って。
手前に引き寄せた。
バランスを崩して、前傾になった典嗣の顔面に。
固く握りしめた拳を放つ。
クリーンヒット。手応えあり。
膝に重心が乗り切らなかったせいで。
相手の鼻骨は折れていないだろうが。
それでもかなり効いたはずだ。
赤くなった拳骨が、じんとしびれる。
どちらかというと、痛い。
ハルキは軽く手を振って、痛みを逃がした。
が。
やや遅れて、べつの部位にも痛みが走った。




