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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
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34.一触即発

 夕日が傾いて。

 きらきらと川面に反射している。

 河川敷には人通りが少なく、ときどき自転車が通りすぎるくらいだった。


 じめっとした湿気の多い夏特有の空気は。

 人々の心を重くしていたが。

 ここの空気はその何十倍と重苦しいことだろう。


「よお。逃げずに処刑されに来たか、骸骨野郎!」


 ハルキの声は。

 典嗣と違って、太く、力強い。

 聞く者を威圧するような、暴力的な凄味がある。


「悪いことをしていないのに、逃げ回る理由はありません」

 典嗣も負けじと応酬するが。

 それはボクサーが試合前のインタビューでよくやる、売り文句に対する買い文句のようなもの。


 半ば強引に言わされているに等しかった。


 事実こうして、ハルキと対峙してみて。

 後悔はしていないと言えば、嘘になる。


 今すぐにでも、逃げ出したい気分だった。


 しかしそれは出来ない。

 逃げられない理由がある。




 ときは多少前後して。

 放課後のことである。


 藤原典嗣と山田和樹は、上級生のハルキの呼び出しに応じて体育館裏に来ていた。


 典嗣が内心ビビッていることなど露知らず。

 いじめッ子の山田は。

「おい、ハルキさんに会ったらちゃんとあいさつしろよ」とか、「絶対に喧嘩を売ったりするんじゃねーぞ」と、釘を刺した。


「ちっ!」

 典嗣は忌々しげに、舌打ちをする。

 そんなことは自分が1番よくわかっているんだ。

 余計なことを言うなよ。

「わかってるよ、それくらい」


「なんだよ、人が親切で言ってるのに、不機嫌な声を出しやがって……」

 腹を立てたように、山田はそう言った。

 しかし典嗣にそのぼやきは届いていない。


 ハルキの戦闘シーンが脳裏から離れないのだ。


 もしもバトッたら、ぼくもあんな風に容赦なく、気絶するまでタコ殴りにされるんだろうか。ああやって、無慈悲に、手加減すらされずに。


 手足にじわっと汗をかいた。

 ぶんぶんと頭を振って、嫌なイメージを払拭する。


「戦いに来たわけじゃないよ」

 山田に返事をしたわけではなく。

 自分に言い聞かせるように。

 言葉にして呟いてみた。


「よお、テメーが、弟をいじめてくれた、非人道的な骸骨野郎か?」

 後ろからポンッと肩を叩かれた。

 驚きと恐怖でビクッと、跳ねる。


「いつからそこに?」

 疑問が、つい口から漏れる。


 が。


 すぐに間合いを取って、典嗣はハルキと正対した。


「ハルキさん、お疲れっす!」

 山田は深々とお辞儀をし。

「今回の件は、ぼくのほうからビシッと叱りつけたので、彼も反省していると思います」

 と、典嗣を見た。


 典嗣もそれに合わせるように、頭を下げた。


「殴れっ!」

 ハルキは山田をにらみつける。

「そこの骸骨野郎を殴れ、和樹。出来るよな?」


「いっ……いえ。それは」

「はあっ? 俺の言うことが聞けねーってのか。ああ!?」

「いや、そういうわけでは……」

「そういうわけじゃねーんなら、どういうわけなんだ。言ってみろよ」

「あの、彼も反省してますし……」

「俺に逆らうんだな。よーくわかった。そういうつもりなら」


 ハルキはずかずかと山田に歩み寄り。

 ほぼノーモーションから、拳打を繰り出した。


 山田はノーガードでそれを受ける。もし仮にガードが追いつかなくても、それに近い動作は出来たはずなのに。

 歯を食いしばって、耐えていた。


「オラオラオラッ!!!!」

 まるでサウンドバッグのように。

 山田は無抵抗でリンチを受け続ける。


「くっそおおお!!!!」

 典嗣は吠えた。


 こういう光景は、大嫌いだ!


「おい、ハルキ。テメェ、自分の身で、俺を殴りに来いよ。ハエの止まるようなへなちょこパンチ、いくらでも受けてやらぁ!」


 ああ、言っちゃった。

 胸に秘めてた思い。解放しちゃった。


「やってやろうじゃねーか、オオッ!?」

 ハルキの視界から、完全に山田の姿が消えた。

 こうなれば半ばヤケだ。涙目になりつつ、典嗣は提案する。

「こんなとこでやり合ったら、先公に止められちまうだろ?どうせなら河川敷で思い切り打ち合おうぜ?」


「上等だ、ゴラアァァッッッ!!!!」


 このようにして、戦いの火蓋は切られたのである。

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