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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
32/101

32.クレイジーハルキ

「腕がジンジン痺れるよ。

 これじゃあ被害者はぼくらだねッ!」

 

 きっと前腕部でデブの蹴りを受け止めたのであろう。藤原典嗣はそこをさすって言った。

 

「そうかもな……」

 これはヤバい、と。

 山田和樹は冷や汗を流す。

 

 当初の予定では、典嗣といっしょに頭を下げて。

 どうせなら土下座でもして。

 ハルキの兄に、許しを請うつもりだった。

 

 なのに。

 なのにどうして。

 どうしてこうなった。

 

 典嗣は上級生がいるにも関わらず。

 3階の廊下を堂々と歩く。

 むしろこちらが先輩だと言わんばかりに。

 

 だが彼ら、上級生も。

 下級生のように丸くはない。

 チープな窓ガラスは、先週、業者が取り替えたばかりだし、男子トイレでは頻繁に故障が起き、今では使用が禁止されている。

 廊下の中央にある水飲み場は蛇口が外されていて、排水口には紙くずが詰まっていた。

 

「6-3の教室はどこかなー」

 そんなすさんだ校舎を。

 意気揚々と闊歩するのだから、畏れ入る。

 山田はげんなりとなりながらも、どこかに頼もしさを感じていた。

 

「違うんですって、ハルキさん。決してそういう意味ではありませんよ」

 どこかの教室から、悲鳴にも似た高い声が発せられる。その声が近付くにつれて、人混みも増していった。

 

 すいません、失礼します。と。

 人をかき分けかき分け進むと。

『6年3組』と書かれた表札が見付かった。

 普段は掲げられているはずのそれは、地面に落ちていて。

 踏まれて、真っ二つに割れていた。

 

 典嗣が息をのむ。

 それを確認し、すこし安堵する山田。

 このまま殴り込みに行くのかと思ったら、そうではないらしい。

 

 そりゃそうだ。

 連れてきたのは自分自身なんだし、典嗣がそんな主体的な行動をとるわけがないか。

 山田はそう胸を撫で下ろした。

 

 そんな典嗣はというと。

 教室の扉から、室内をのぞき込んでいた。

 傍若無人だなとあきれつつも、それにしたがう山田。

 

「…………ッ!」

 言葉を失った。

 

 凄惨。

 その二文字が、陳腐な思考をかっさらう。

 なんだ、この光景は……。

 これが、上級生だというのか。

 

 その教室にいたのは、男子生徒が2人。

 他生徒の侵入や、先生の介入を防ぐために。

 2ヵ所ある出入り口には、机によるバリケードが敷かれていた。

 椅子はあちらこちらに散乱しており。

 教材や荷物類は、しっちゃかめっちゃかにかき乱されている。

 

 しかし、その描写は。

 あくまでも客観的でしかない。

 キャラクター目線で言えば、そんなところには目がいかないはずだ。

 

 まず彼らの視線をさらったのは……。

 ひとりの男子生徒だった。


 その者は。

 鼻がおかしな方向に折れ曲がり。

 アゴがあらぬ方向に外されていた。

 両目には青あざが出来ていて。

 こぶのように腫れ上がっている。


 床のところどころに。

 血を雑巾で拭いたような跡がある。


 悲鳴をあげていた人物が、流血しながら這いずり回ったのだろう。


 それだけでも十分に、阿鼻叫喚の地獄絵図。

 身の毛もよだつ光景だというのに、ハルキの拷問は続けられる。


 標的の髪の毛をつかんで。

 窓側へ連れていくハルキ。


 そのまま被害者の顔面を使って、窓ガラスを1枚1枚、割っていく。


「うううっ……」

 とてもじゃないが、直視が出来ない。

 吐き気を催した山田和樹は。

 典嗣の襟首を引っ張って、階下へと向かった。


 その足取りは、恐怖を隠しきれていなかった。

 しかし、畏怖していたのは、山田だけではない。


 藤原典嗣も例外なく恐怖していたのだった。

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