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四つの扇  作者: オリンポス
4章:臥薪嘗胆の藤原家、推参!!!!
31/101

31.レベルが違う

「めんどうなことって、なに?」

 藤原典嗣は早足で廊下を歩く。

 隣ではいじめッ子の山田和樹が、焦ったような表情を浮かべていた。

 

「良いから早く6年の教室に行くぞっ!」

 ぐいっと。強引に典嗣の腕を引っ張って。

 山田は階段を2段飛ばしで駆ける。典嗣もそれにならった。

 しかし典嗣は、勢い余って段差につまずく。

 手すりにつかまって、体勢を立て直した。

「おいおい、しっかりしてくれよ」

 と、後ろを向いた途端。

 山田は壁のようなものにぶち当たり。

 後方へと転落してしまった。

「いてて……」

 

「あー、痛ってー。

 こりゃあ骨が折れたわー。慰謝料一千万円寄越せや」

 山田がぶつかった男は。

 恰幅の良い、団子のような体型をしていて。

 全体的に大柄なタイプだった。

 その細い目からは、鋭い殺気が放たれている。

 

「骨が折れたかどうかは、お医者さんに行って、診断書とレントゲン写真をもらってきてから判断してください。もしかしたら骨粗しょう症かもしれませんよ? おじいさん」

 典嗣はそんな上級生に向かって、喧嘩を売る。

 

 団子デブの首筋に太い血管が浮かび上がった。

 気味の悪い薄笑いを顔に貼り付けて。

 蹴りのモーションに移行する。

 ただし、それを見破られないために。

 顔を叩いて、冷静さを取り戻す演技をした。

 

「口の聞き方には気を付けようねっ!」

 デブはそう言って、典嗣に背中を向ける。

 

「典嗣、避けろっ!」

 場馴れした経験則から、山田は怒号を飛ばす。

 大声が踊り場に反響した。

「気付くのが遅ェんだよ。このアマちゃんがあッ!」

 デブの身体が回転し。

 瞬間、蹴り足が現れる。

 

 典嗣の掣肘線(せいちゅうせん)に、デブのつま先が迫る。

 

 後退しようにも、典嗣は階段の途中にいるのだ。

 下手をすれば、足を踏み外すかもしれない。至極危険である。

 だからといって、相手の攻撃を受ければ。

 受け身も取れずに真っ逆さまだ。

 

 ここは捨て身の覚悟で飛び降りるしかない。

 

 山田はそう判断して。

 声を張ったのだが。

 どうやら間に合わなかったらしい。

 

 典嗣はデブの攻撃を受けた。

 

「いや、違う。これは……」

 

 受け流した。のか。

 

 蹴りがヒットする刹那。

 片手で敵の蹴り足を弾き。

 もう片方の手で。

 重心をずらされたデブの上半身を崩して。

 回し蹴りを、いなしたのだ。

 

 まるで型の稽古をしているような軽快さで。

 

 それを見て、山田和樹は戦慄した。

 コイツ、侮れない。

 ゾクゾクした。胸が高鳴る。

 

 一方のデブは。

 ソリのように滑走して、壁に頭をぶつけて止まった。

 うつ伏せにダイブしたから、前歯が何本か逝ってしまい。

 鼻や口からは微量の血を流している。

 

「怪我はない? 山田くん」

 

「ああ……」

 気の抜けた返事をして。

 山田はデブを見る。哀れむような目で。弱者を見下す目で。


 そんな山田に。

 藤原典嗣は、ほほ笑みかけた。


「山田くんは、気にしなくて良いよ。

 だってコイツ、慰謝料を欲してたじゃん? もしも骨折とかしてたら、大好きな保険金(おかね)が入ってくるんだよ。至れり尽くせりじゃんか。ねッ?」


 ブルッと。

 山田の身体が、再度震えた。

 マンネリした日常に、台風が吹き荒れる。


「もしも本当に保険金(おかね)をもらったなら、ぼくはそれを折半してもらうつもりだよ。

 だって協力者(なかま)なんだからね。

 山田くんはどうしたい? コイツからもらいたい?」


 典嗣の残虐な思考に、胸が痛んだ。

 それでも山田は、非難するでもなく、普通に答える。


「俺は結構だ」

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