3.西家の実力者
さびれた公園だった。
もはや公園であったことさえも疑わしいほどだ。
――ほとんど手入れされていない雑草は好き放題に生い茂り、その全長は人間の姿をすっぽり覆い隠してしまえるほどもある。遊具のブランコはチェーンが外されていて、ジャングルジムはPPロープで縛られている。背の低いスベリ台は梯子の部分にいくつか破損がみられ、シーソーは軸となる部分が摩耗してその機能をはたしていなかった。
そんな公園に。
東家の灯火と、西家の虚空がいた。
「おい、お前。俺は自分よりも弱いやつとは戦いたくねえんだ。さっさと西風扇を置いて立ち去れ」
背の高い草が邪魔をして、お互いの姿は視認できないが、それでも灯火は相手が女の子であることを知り、停戦を申し込んだ。
「私が弱い? それはいささか心外ね」
虚空は口もとに嘲笑を浮かべ、
「単純な格闘戦ならいざ知らず、これは扇を用いたバトル。扇の使い方に習熟していればいるほど有利になる戦いよ」
「だからなんだって言うんだ?」
「ろくに扇を使わせたこともない軟弱な東家が、西風扇のスペシャリストである西家にかなうはずがない。そう言いたいのよ」
「ああ、そうかい。わかった。ちょっとそこで待ってろ」
灯火はニタリと口角を上げた。「女だろーが容赦はしねー。思いっきりぶん殴ってやる!」
「ふふふ……。それは楽しみ」
夕日が西に傾く頃。
東家と西家の家督争いは始まった。