29.アンコントローラブル
ご飯、味噌汁、ひじき煮、玉子焼き、納豆。
これらの朝食を卓袱台に並べて。
槐は正座をしたまま、灯火の帰りを待っていた。
「おかえりー、じいちゃん」
「ただいまじゃろっ! 帰って来たときは」
私服に着替えて居間に行く灯火。
ご飯や味噌汁から立ち上る湯気が、ごく微量になっていた。
「じいちゃん、今日の修業はなんだ?」
「今日は、風呂を沸かしてもらおうかの」
「風呂? 追い炊きで良いのか?」
「そうじゃよ。ただし……」チッチッと指を振ってから、槐は。「内的エネルギーを用いることとする。そうじゃの設定温度は60度にしてもらおうか。機械ではそこまで熱することは出来まい」
「なんだ、そんなもんか。なんか楽勝っぽいな」
「ほお、強気じゃの」
「当たり前だろ。さっさと沸かして来てやるよ」
――1時間後――
「ああ、地味だー。手がふやけてきたー」
現在の水温、約40度前後。「体温まで熱するのが、限界だー」
今回の修業は――。
コップの麦茶を沸騰させるのと。
風呂を沸かすのとではまるでわけが違った。
まずそもそも容積が違うのだから。
用いるエネルギーも倍増しようというものだ。
「どんだけイメージしても無理だーっ!」
じわりじわりと体力が吸い取られていくような気がする。
このままだと一生かかっても終わらない。
思い出せ。
あのときのことを。
北家の❝過冷却❞を。
あれを、破る、イメージ。
大陸を火の海に沈める感じ――。
じゅわっ! と。
風呂の水は一瞬で気化し。
その水蒸気を浴びて、灯火は我に返った。
「なるほどなるほど」
熱探知で修行の行方をうかがっていた槐は。
「今はまだLOWかHIGH。MAXかMIN。極大か極小。
まったく熱のコントロールは出来ていないようじゃ」
洗剤を継ぎ足して、食器を洗いながら言った。
「しかしこれほどまでの内的エネルギーを所有しておるとは驚きじゃ。ワシや炎暑をも凌ぐ潜在能力が、灯火には秘められているのかもしれんな」
一方の灯火は。
内的エネルギーの使い過ぎで。
激しい虚脱感に襲われ、しばらく立ち上がれずにいた。
タイルの壁にもたれながら、ただぼんやりと座ることしか出来なかった。




