28.再会、骸骨少年
住宅街はしんと静まり返っており。
時折聞こえるバイク便の音が、静かな朝に大きく響いた。
人工的に投与されている明かりは街灯ばかりで、家々はまだまだ寝静まっている時間だ。
「はっはっ……」
そんな中。
羽柴灯火はランニングウェア姿で、街中を走っていた。
「はぁはぁ……」
無論、昨日の疲れは残っている。
やけどをした箇所はまだ痛むし。
布団のぬくもりは掌に浸透したままで、すごく眠いし。
そしてなにより。
筋肉が悲鳴を上げているのだ。
走り出して間もないのに、限界。
持っていたストップウォッチを押して、時間を止める。
“5分27秒67”
たったの5分ちょっとしか走れなかった。
ふくらはぎが、ズキンズキンと痛みを訴える。
それがなんとも言えず、もどかしい。
もっと走らなきゃ。もっと強くならなきゃ。
そう焦れば焦るほどに、痛みは増していく一方だった。
クールダウンのために、整理体操とウォーキングを開始する。
身体を捻ったり。
腕を伸ばしながら。
歩く。
じんわりと心地よい刺激を感じながら、歩く。
気が付けばだいぶ陽も昇っていて。
厚い雲の切れ目から顔をのぞかせている。
「結構歩いたな……」
空気があたたかくなってきたところで。
灯火は足を止めた。
そこは南家との抗争に敗れ。
虚空に連れられてやって来た、河川敷だった。
「よお、骸骨少年。またここで会うとは奇遇だな」
灯火は斜面を駆け下りて、いつぞやの骸骨少年に話しかけた。
彼はTシャツに、ジャージズボンという出で立ちだった。
「こんなところでなにやってんだ?」
「空手の稽古だよ。組み手は出来なくても、型の稽古は出来るしね」
へへっと。
骸骨少年は照れたように人差し指で鼻を掻いた。
「がんばって強くなって、いつか試合に出してもらうんだ」
シュッシュッと。
空気を切り裂く拳には、確かな切れ味が感じられた。
おそらく昔から修行していたのだろう。
「あれから学校はどうだ? まだ馬鹿にされるか?」
「うん、ちょっとね……」
どうしようもさなそうに笑んで、骸骨少年は。
くしゃくしゃに丸めた紙くずをジャージのポケットから取り出した。
赤ペンで花丸が書き込まれた、算数のテストだった。
「100点を取ったのか? スゲーじゃん」
「そうじゃなくて……」
言いよどんでから。
骸骨少年は。
プリントの裏を広げて見せた。
“あした、たいくかんうらに、来い”
「なんだ、これは?」
「喧嘩の呼び出しだよ。いじめっ子の山田にたて突いたから。昨夕、下駄箱の中に入れられてた」
「なるほどね。やる気か?」
「止めないでね? 元はと言えば、背中を押してくれたのはそっちなんだから」
「止めねーけどよ、喧嘩の相手は山田だけなのか?」
「どうだろう? ギャラリーは何人かいるかも……」
ギャラリーが本当に中立かどうかはわからないし。
もしも山田とかいう奴の手下だとしたら、なんか後味悪いしな。
お節介なのはわかってるけど。
「だったら放課後、そいつをここに呼べよ」
「まさかお兄ちゃんがやっつける気?」
「んな、野暮なことはしねーよ」
ギャラリーが不審な動きを見せたら、存分に暴れさせてもらうけどな。
とは言わない、灯火だった。




