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四つの扇  作者: オリンポス
3章:捲土重来を期する、東家と西家!!!
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27.熱戦、サウナ対決

「これが……修行、なのか? 湯治じゃなくて?」

「ハイビスカスのご隠居さんから、熱の分散は教わったんだろ。だったら今すぐそれを使え。修行にならないぞ」

「いや、あれは周囲に熱気を逃がす技だから、そんなに密着してるとやけどするぞ?」

「心配ない。風前の灯火」

「風前の灯火!? 言ってくれるじゃねーか、障子の張り紙」

「なんだと? やんのか、コラッ!」

「アアッ!?」


 高温サウナに、羽柴灯火と富士宮正二は入っていた。

 そこはヒノキの香りが漂う一室で、室温はおよそ90度前後に管理されている。

 初心者向けの入り口方面と、上級者向けの暖炉方面があるが、彼らは後者に座っていた。それも上段と下段のうち、温度が高い上段にである。


 真っ赤に染まった裸体を並べて、男2人は語り合っていた。


「今すぐ決着をつけてーとこだけど、ここはひとつ、大人の決め方をしねーか?」

「はあっ?」

「そう噛み付くな、薄汚い歯形が残るだろ」

 富士宮正二は年長者として、比較的穏便な解決策を提案した。

「今から長くサウナに入ってたやつが勝ちってのはどうだ? お前も熱分散を習ってるみたいだし、異論はないだろ?」

「ねーけど……」

「だったら決まりだ」


 富士宮正二は股を広げて、どっかと座りなおし。

 腕を組んで目をつむった。

 心頭滅却すれば火もまた涼しとは言うが、彼は本当に涼しそうな顔をしている。


「納得いかねーな、これじゃあ俺の横綱相撲になるじゃねーか」


 しかし、灯火はこれから思い知ることになる。

 横綱は自分ではなくて、富士宮正二だということを。


 それは優に30分を超えた時間帯であった。

 熱分散などは使わずに、相手に合わせて正々堂々と戦ったつもりの灯火だったが。

 ある異変に気付いた。


 土砂降りにでも打たれたかのように憔悴し、汗を流している灯火とは違い。

 富士宮正二はほとんど汗をかいていなかったのだ。


「これは、一体……?」

「全くがっかりだな、東家の末裔。まるでお話にならない。これ以上続けたら、お前は脱水症状で倒れちまう。試合はやめだっ!」

「ちょっと待てよ。勝負はこれからだ」

「残念ながらもうやる意味はない。やりたいならひとりで続けてろ」

「最後までやってみなきゃわかんねーだろっ!!」


「もしそれが本心なのだとしたら、これだけは言わせてもらおう」

 ギイッと浴場へと通じるサウナの扉を開いて。

 富士宮正二は言った。

「試合の最中に手ェ抜かれたやつの気持ちも考えろ。こんな屈辱的な勝ち方をしても、ちっとも嬉しくねーぞ。ちゃんと戦ってほしかったら、初見の印象だけで相手を侮らず、全力を尽くしてちゃんと戦え。

 これが実行出来るようになったら、またいつか相手をしてやるよ」


 ずきっと、胸が痛んだ。

 そこに手をやるとやけどの痕がまざまざと残っていた。


「あのときの敗北から、俺はなにも学んでいない」

 それを思い知らされた気分だった。

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