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四つの扇  作者: オリンポス
3章:捲土重来を期する、東家と西家!!!
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26.乙女と理不尽なヤツ

 一足先に、浴場へ向かうように促された槐は。

 灯火を連れてエレベーターに乗った。

 鉄の箱がぐんぐんと上昇し、厚い扉が開くと——そこにはだだっ広い、座敷空間があった。

 箱から出てすぐのところに上がり(かまち)があり、そのすぐ側には給水機が設置されていた。

 座敷の奥のほうには、青いのれんと赤いのれんがそれぞれ掛かっていて、自動販売機はそこから出てすぐの場所に置かれていた。


「孫に裸体を披露するのは何年ぶりくらいかの?」

 槐は照れて顔を赤くしていた。「緊張するの……」

 焦らすように、ゆっくりと脱衣する槐に向かって、灯火は。

「じいちゃんは、乙女かっ!」

「そうじゃよ、よくわかったの」

「ゲッ……。もしかして、こっち系?」

「違うわい。出し抜けになにを言い出すんじゃ、灯火」

「だって乙女だって認めたじゃん」

「乙女座という意味じゃ」

「乙女じゃという意味じゃ?ゲッ……。やっぱりこっち系じゃん」

「ええい。この際どっちでも、ええわいっ!」

「良くねえよっ!」


 脱衣かごに衣服を入れ終わったところで。

 灯火はまじまじと歴戦の猛将を見つめた。

 骨が砕けているのか、内臓がつぶれているのか——槐の上半身には陥没している部位がいくつかあり。

 みぞおちから臍下丹田(せいかたんでん)にかけては、切開による手術の跡が生々しく残っていた。

 詳述できぬほどにグロテスクな足は、骨を幾分削ったためついた傷痕だし。

 足の甲に出来ているコブは、野球ボールが半分埋まっているような盛り上がり方をしていた。


「なにをジロジロと見ておるのだ、灯火」

「ああ、ごめん」

「あまりエロい目でワシを見ないでくれ」

「だれが見るか、クソジジイ!」


 ガラガラッ……と。

 大浴場へと続くガラス戸を開けたところで。


「よお。家族水入らずのところに水を差して悪いが、久しぶりだなあ、灯火」

「お……お前はっ!」


 短く刈られたくせっ毛の茶髪に。

 脂肪もないが筋肉もほとんどついていない――無駄はないが微妙なボディ。

 攻撃的に釣り上がった目元には、どこか冷めた印象を受ける。

 この人物は。


(だれだっけ?)


 会ったことなんてあるかな?


「まさか北家の刺客……」

「違うわっ! ほら、テメーの両親が他界したとき、葬式で会ったじゃねーか」

「だれだ? いたっけ、お前みたいなやつ」

「ほら、お前の頬をぶったやつ」

「あー、あのときの理不尽野郎」

「理不尽……。ちゃあ、理不尽だった、ゴメン」


 喪主を務めた祖父、羽柴槐の側で。

 羽柴灯火は会葬者管理簿に名前を記入させる役目だったのだが。

 まだ幼い灯火には、とてもじゃないが耐えられない苦行だった。

 管理簿に記入をさせたら、そのぶんだけ、両親の死を認めることになる。


 嫌だった。

 最愛の両親がこの世からいなくなったなんて。

 ましてやそれを認めるなんて。


 だから、灯火は逃げ出した。

 遺族以外立ち入り禁止の控え室に。


 そして、ぶん殴られた。

 富士宮正二によって。


「男ならめそめそ泣くんじゃねー!

 泣いていいのはな。父親が死んだときと、母親が死んだときの、2回だけだっ!」


 えっ?

 それって今じゃね。

 とは、さすがに言えなかった。

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