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四つの扇  作者: オリンポス
3章:捲土重来を期する、東家と西家!!!
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23.本格修行開始

「なんのかんのと話したが、結局のところはなにも伝わっておらんじゃろ。のう、灯火」

 槐は断定口調で言った。

 その言葉からは、灯火の理解能力をさいなむ響きが感じられるが。

 槐には灯火を責めているつもりはなかった。


 ただの確認だったのだが。


「バカで悪かったな、じいちゃん。俺はバカだから、なにひとつ理解出来ちゃいねーよ」

 自虐するように灯火は言った。

 暗く沈んだ顔には、あざけるような笑みが浮かんでいる。


「そういうつもりで言ったんじゃないぞ灯火。ワシはただ、確認のつもりで……」

 灯火がへそを曲げてしまったのだと思い、槐はつい取り乱してしまった。「だから悪気があったわけじゃなくてじゃな」


「気にしてないよ、じいちゃん。それどころか——」灯火は親指を立てて快活にこう言った。

「むしろワクワクしてるんだ。出来ない理由を探すんじゃなくて、出来る理由を探したいからさ」


 戦闘狂の土竜。

 姿も名前もわからない北家の刺客。


 これからの家督争いを考えると、さすがに能天気ではいられないが。

 病弱な骸骨少年を叱咤激励した張本人が、落ち込んでなんかいられない。

 自分の言葉には自分で責任を持つ。——有言実行だ。


「なんだかんだで東炎扇も使えたことだし、例によって身体で覚えることにするよ。内的エネルギーの使い方、ぜひ教えてくれ!」


「良かろう、それでこそワシの孫じゃ。

 内的エネルギーはときとして、外的エネルギーよりも莫大な力を発揮するからの。身につけておいて損はしないはずじゃ 」


————————


「さっきまでの威勢はどうしたんじゃ、灯火。息が乱れておるぞ」

「——ゼエ。——ハイ! ——ハァハァ……」

 頭上からの強烈な熱波と、アスファルトの照り返すような熱気に耐えながら。

 灯火は走っていた。

「まだ数キロも走っておらんぞ!」

「——ハイ」

「声が小さい」

「ハイッ!」

 槐も並走しているが、明らかに灯火のほうが辛そうであった。


 それもそのはずである。

 ランニングウェアだけを着ている槐に対し。

 灯火は——マスクを着用し、ダウンジャケットを羽織り、厚手のジーンズを穿き、インナーシャツと靴下には貼るカイロをくっつけて、まるで熱中症による死のリスクを上げるような格好をしていたのだから。


 口で呼吸をすると、汗やら唾液やらでマスクが張り付くので。

 返事をする以外には、鼻での呼吸を余儀なくされた。

 呼吸がしにくいためか、灯火は幾度となく酸欠になりかけた。

 その度に頭がくらくらして、目の前が真っ暗になる。

 だが両足は別個の生命体であるかのように、機械的に駆動し続けたため、止まることはなかった。


 ぼんやりとした視界を自転車がすれ違う。

 それはキューッという甲高い音を鳴らしていた。

 しばらく後方でパンッという破裂音が耳に響いた。路面の熱でタイヤのゴムが溶けたのだ。

 灯火の着ているダウンジャケットからも、うっすらと煙が出ていた。


「もう、限界だ……」

 気がつく頃には、足がもつれて。

 四つん這いの姿勢で、地面に膝をついていた。

 ゴムを溶かすほどのアスファルトを、素手で触っているのに、不思議と熱さは感じなかった。

 如雨露(ジョウロ)で撒く水のように流れる汗は、数瞬後には蒸発していた。

「お疲れ様じゃの!」

 槐は手に持っていたペットボトルのふたを開けて。

 灯火の頭に浴びせた。

「オエェッ!」

 灯火は激しくえずいたあと。

 今度はブルブルと震え始めた。

 熱けいれんだ。

「うぐぅ……」

 灯火は苦悶の表情で足をさすっている。


 槐は灯火の両脇に腕を通して木陰へと運び、食塩水を無理やり飲ませてから。

 服を脱がせていった。

 灯火がさすっていたジーンズの箇所は、ものの見事に焼け焦げていた。


「本格修行第1段階、これにて終了じゃな」

 心配と安堵の混交した、泣き笑いの表情で——槐は呟くのであった。

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