22.内外的エネルギー
「まずは稽古をつける前に、座学から始めるぞ。準備は良いか、灯火?」
日本家屋の一室、畳の部屋で。
灯火と槐は、向かい合って正座をしていた。
槐は片耳に包帯を巻いて、痛々しい傷痕を隠してはいるが、その生々しさはむしろ強調されていた。
一方の灯火も、さらしのようにして。
腹周りを包帯で覆ってはいたものの、それはある種武闘家のファッションのようにも見えた。
理由は、彼の肩幅が広く。
スリルに引き締まった腹筋も、枡が埋まっているのかと思うくらいに割れていて、鍛え抜かれていたからである。
恐らく単純な力比べであれば。
それもたとえば腕相撲であったならば。
灯火の圧勝だったはずだ。
「素手喧嘩の……扇なしのガチの殴りあいはやんねーのか? じいちゃん」
「やっても良いが、今の灯火じゃワシには勝てんよ?」
「言うじゃねーかよ、クソジジイ。1度勝ったくれーで調子に乗るなよ?」
「調子に乗っておるのはどっちじゃ? 相手の力量も測れず、見誤り、南家の荒くれ者に大敗を喫したのはどこの御仁かの?」
「あれは……。
クラスメイトっつー、人質がいたからであって……」
「そういきり立つな。まずは座りなさい」
今にもつかみかからんとする灯火をいさめて、槐はゆっくりと続けた。
「まずは扇が手元になくても、その能力を使役し得るようにならねば、話にならんからの。
ところで灯火。扇の持つ本来の役割というものは知っておるか?」
「扇の持つ、本来の役割?」
復唱し、思考してみるが、「そんなものは知らない」
聞いたこともなかった。扇には属性攻撃をする用途以外にも、なにか役目が与えられているというのか。
「そうじゃの。漠然とした説明になるが自然界には内的エネルギーと外的エネルギーの2種類がある。
内的エネルギーというのは、生物が生きるために発するエネルギーのことじゃ。たとえば灯火の基礎代謝なんかもそれに値する。要は『有機物の発するエネルギー』のことじゃ。
対する外的エネルギーというのは、原子力発電や太陽光発電のような『無機物によって生成されるエネルギー』のことじゃ。
外的エネルギーを取り込んで来て、おのれのエネルギーとして昇華するのが、扇の役割なのじゃ。
そしてさっきワシがやってみせたのは、内的エネルギーで作り出した炎……扇の熟達者となればあれくらいは容易に出来るのじゃ」
「なんとなーくわかったけどさ。その内的エネルギーってどうやって使うんだ?
話を聞く限りだと、基礎代謝だけで、技が発動出来るようなニュアンスだったけど……」
「うーむ、そうじゃの。だいぶ感覚的な説明になってしまうが」
槐は腕を組み。
難しい問題に頭を悩ませる学者のような顔をしてから。
少しずつ言葉を紡いでいった。
「技を発動させるイメージと、技が発動したあとのイメージ……じゃな。
身体のどの回路から、どのようにして、どのような技が放出されるのか、明確にイメージすることが肝要なのじゃ。
手っ取り早い例でいくと、掌が燃えるイメージを持つとするじゃろ。そして実際に手に力を込めると、燃焼型猛打掌が使えるといった要領じゃな」
「力を込めるっていうのは、単純に力こぶを作るってことじゃないんだよな?」
「力の入れ方は人それぞれじゃ。技の発動がイメージ出来れば、どんな風に力を入れてもらっても構わん。しかし、あんまりにも入れすぎていると、技を使用したあとの虚脱感がとてつもないからの。戦闘においては、そういうさじ加減も重要になってくるのじゃ」




