20.一子相伝の武者修業
検査入院を無事に終えた――羽柴灯火と、羽柴虚空は。
それぞれ実家に戻り、師範の教えを請うこととなった。
羽柴灯火と、羽柴槐は、例の日本家屋――。
否――、日本庭園で修業を開始していた。
「まずは実力をはかりたいからの。東炎扇を使って情け容赦せず、ワシをぶっ殺しに来なさい!」
「はっ?」
東炎扇を片手に持ちながら、灯火は首をかしげた。
「いくらじいちゃんでも、扇を持った俺に勝てるわけねーだろ?」
「さしずめ鬼に金棒とでも言いたそうじゃが、それは傲慢じゃよ灯火。
ワシからしてみれば、それくらいのハンディキャップはあってないようなものじゃからの」
「ぶっ飛ばすぞ、じじい」
血の気の多い灯火のこと。
発奮するために、乱暴なセリフを吐くことがままあった。
「来い、灯火!
格の差を見せつけてくれるわいっ!」
「ぬかせっ! クソじじいー」
東炎扇の力は使わずに、灯火は徒手で突っ込んだ。
「うぉおりゃぁあああーーーっっっ!!!!」
槐の直前まで迫ると、灯火は。
身体を捻転させ。
勢いまかせ、力任せに右ストレートを打ち込んだ。
「甘いわっ!」
軽いフットワークで灯火の右拳を避けると。
槐は渾身の掌底打ちを披露した。
「燃焼型猛打掌」
胸部に向けて、掌底を打つ槐。
彼の掌は、真っ赤に燃えている。
「ぐふっ……」
熱い。
熱い熱い。
熱い熱い熱い。
熱い熱い熱い熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い。
なんだ、この技は。
東炎扇でもねーのに、とんでもない高熱を放ちやがる。
ただでさえ、威力もけた違いだというのに……。
胸に根性焼きでもされたみてーだ。
焼け爛れるぞ?
「本気で来い、灯火。
扇などなくても、ワシには技が使えるぞ?」
「へっ! 上等だ。クソじじいー」
灯火は遠慮なく、東炎扇を振った。
「焼暴弾」
バランスボールほどある火炎の球体が、東炎扇から発射される。
初速、秒速、分速、時速。
どれをとっても――成人男性がダッシュするより、やや遅いくらいのスピードだった。
「無視球」
槐は――肘をしならせて、まるで。
焼暴弾に往復ビンタをするかのように振る舞った。
「終わりだ、じじいー」
灯火は腹の底から咆哮した。
だが――くいっと。
火炎の球体は方向を変えた。
槐の手信号に従いでもするかのように。
「ふむ、こんなものか」
ひらりと牛をかわす闘牛士のように、冷静な槐。
「まだだーっっっ!!!!」
対する灯火は激昂していた。
「纏式火炎弾」
灯火の怒りを体現するように。
彼自身の身体は、燃え盛る火炎に包まれた。
「連射式少量焼暴弾」
再度、扇を振るうと。
焼暴弾の縮小サイズ、ピンポン玉くらいの無数の弾丸が。
時速200キロほどで、槐の周りを横切っていった。
もしも当たれば、タダでは済まされないだろう。
じゅっ……。
肉が焦げたにおいが、老人の鼻孔を刺激した。
痛みを感じるまでもなく、片耳が溶けていた。
「油断したのお……」
片耳を失った槐は、それでも憤ることはせずに。
「防火式鎧戸」
と。
地面に手を置き。
なにかをすくい上げるようなモーションで立ち上がった。
すると。
老人ひとりは楽に守れる、火炎の防壁が出現した。