2.決闘する理由
「なるほどな――。この扇が災いのもとになったってことは十分理解できた」
灯火は泣き止み。
再び正座をして、老人と向き合っていた。
「使い方さえ間違わなければ、とんでもねー兵器になりそうだもんな」
「それなんじゃよ。西家と決闘する理由は」
老人の眉間には深いしわが刻まれている。
「は?」
灯火は思わず訊き返した。
最悪の想像が浮かんでは消えて、浮かんでは消えて、やがて明瞭になった。
「西家は我々東家を滅亡させ、ゆくゆくは南家も北家も倒して、羽柴家の頂点として君臨するつもりなんじゃよ」
「なんだそんなことか。国家転覆とか国際的なテロ活動かと思って心配したじゃねーか」
「そんなこととはなんじゃっ! たしかに現状では国家存亡の危機はないかもしれんが、長期的にはそれも考え得る話じゃろ」
「どーでもいいけどよー、どーせだれかが家督を継がなきゃなんねーんだろ? だったら西家にそれを任せてしまえば一件落着なんじゃねーのか? さっさとその東炎扇を渡しちまえば危害も加えられないだろーし」
「よしんばそうなったとしてもじゃ。西家にだけは家督を譲りたくないんじゃ」
「なんでだ?」
灯火はまた足がしびれてきた。
尻を浮かせて足の回復を待ちながら、話し合いを続ける。
「西家は徹底した差別主義集団じゃ。もしやつらが天下を取ったとしたら、我々はどんな目に遭うかわからぬぞ。そしてその不当な差別は我々の子孫にまでも及ぶじゃろうな」
なるほど。
――灯火はうなずいた。
「要するに傲慢な差別主義者にひと泡もふた泡も吹かせてやればいいんだな。東炎扇があればらくしょうだぜ!」
「くれぐれも油断はするでないぞ。相手も西風扇を持っておるんじゃからな」
「わかってる」
「決闘は本日の夕暮れどきだそうじゃから、まだ時間があるの。どうじゃ、付け焼き刃でも東炎扇を用いた実践演習をやってみるか?」
老人はすっくと立ち上がり、張り切って言った。「使い方ならひと通り、指南できるぞ!」
「よろしく頼む!」
灯火は正座の姿勢を保ったまま、頭を下げた。