18.氾濫に続く大波乱
ぴきぴきぴきぴき、と。
灯火の下半身が凍っていく。
纏式火炎弾はいつの間にか鎮火していた。
「畜生! なんなんだよ、この氷はっ!」
灯火は身をよじったり、氷を叩いたりしたが。
なんというのだろう。
まるで、脚にセメントを流しこまれたかのように。
びくともしなかった。
そんなことをしている小間にも。
骸骨少年やその家族、虚空までもが生気を失っていく。
「なんなんだよ、畜生!」
灯火はおのれの無力さを呪った。
なんだかんだと偉そうなことを言っておきながら、肝心の自分はなにも出来ないのだ。
悔しい。
無力な自分が悔しい。
このまま死ぬのは、べつに構わない。
弱いから死んだ。
それは受け入れられる。
だけど……。
だけど、それじゃあ……。
こんな弱っちい口だけ野郎にだまされたかわいそうな男の子は、なにも報われないじゃないか!
「あいつだけでも、救ってやりてえんだよ。無理だとは言わせねえぞ、東炎扇」
血が出るほどに強く、拳を握りしめる灯火。
爪が手のひらに、深く喰い込んだ。
「無理をしてでも、無茶してやる。
だから。
俺の命を奪ってでも良いから、この氷をなんとかしやがれーっ!!!!」
灯火は渾身の力を込めて。
東炎扇を大きく振った。
「熱烈大陸」
熱い……。
焼けるというレベルじゃない。焦げるような熱さだ。
気を失う寸前、灯火は氷が解けているのを知った。
良かった。これならあいつだけでも助かる。
そう思う頃にはもう、灯火は意識をなくしていた。
「ここは、どこだ?」
本日2度目の気絶。
気が付いたのはベッドの上だった。
ずぶ濡れだったはずの体操着から、空色の患者服に、服装が変わっていた。
口には、酸素吸入器。
腕には、点滴用の注射針。
無意味に、脈拍測定機までついていた。
胸に込み上げてくるような不快感や。
全身にくまなく広がる倦怠感のせいで、気絶した前後の記憶があいまいになっている。
「おお、目が覚めたか灯火」
お見舞いのフルーツバスケットを持って、老人がやって来た。
「じいちゃん? もしかして、ここは」
「そうじゃ、検査入院じゃ」
「検査入院!?」
言われて、なんとなく思い出す。
そうだ、そういえば……。
川が氾濫して。溺れて。氷漬けになって。
その後――骸骨少年はどうなったのだろう。
「骸骨少年? ああ、彼らなら別室で休んでおる。同盟国の西家も別室でな」
「生きているのか? あいつらは大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃ。ぐっすり眠っておる」
「良かった」
「そうじゃの……」
無邪気に喜ぶ灯火の傍らで、老人は深いため息を吐いた。
学校での件には――南家が。
河川敷の件には――北家が。
それぞれ絡んでいる。
いくら隠居していても、それくらいの情報は入ってくる。
南家の不意打ちに。
北家の闇討ち――か。
「そろそろワシも出番かのう?」
老人はまた深いため息を吐いた。