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四つの扇  作者: オリンポス
3章:捲土重来を期する、東家と西家!!!
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17.骸骨少年の奇跡

纏式火炎弾フレイムアーマー

 灯火は東炎扇を振るった。

 扇からは燃え盛る炎が出現し、彼の身体を包み込む。

 その炎は体毛のように全身を被覆し。

 遠目からは火達磨状態となった。


「えぇっ?」

 骸骨少年は驚愕と驚嘆の入り交じった声を上げた。

 ごしごしと目をこすって。

 この不可解な現実を認識しようとしている。

「どうなってるの? 手品なの?」


 紅蓮に染まった灯火の運動靴が、川面に触れた。

 途端に水蒸気が宙を舞う。

 一瞬で気化した流水が、もやのように広がっていく。

 まるでミストシャワーだ。


 灯火を中心にして。

 水が螺旋状に回り始めた。

 絶え間なく蒸発を繰り返す河川だが。

 その流れは一向に弱まらない。


「やべぇ、もう疲れてきた……」

 水辺を歩いただけで、灯火の太ももは。

 鉛を入れられたように、動きにくくなっていた。

 土竜との戦闘で、すでに体力はピークを迎えていたのだ。

 そこに水の抵抗が加算され。

 さらに防水性能がほとんどない炎の鎧を使用したため。

 運動靴が大量の水分を吸ってしまい、歩行を妨害していた。


 疲労の度合いが増していくにつれて。

 鋭い濁流もすこしずつ落ち着きを見せ始めた。

 だが油断は出来ない。

 例の親子ははるか下方で溺れているし。

 灯火のふくらはぎはすでにパンパンだ。

 下手に動けば、彼自身も転んで溺れかねない。


「くっそ。全然追いつけねえ!」

 と。

 太い息を漏らそうとした。

 まさにそのとき。

 奇跡が起こった。


「お兄ちゃん」

 骸骨少年は叫んだ。

 なんと彼は、下流のほうで親子2人を受け止めていたのだ。


「ありがとう、お兄ちゃん。お母さんとお兄ちゃんを助けられたよっ!」

 弱々しい声を精一杯振り絞って、骸骨少年は言った。


 水かさは大幅に減少しているが、骸骨少年の腰の辺りまである。


「やれば出来るじゃねーか! ホラ、さっさと陸に上がれ。救急車を呼んでやるからよ」


 骸骨少年は親子2人の身柄を、近くで待機していた虚空にあずけて。

 岸に上がろうとした。


 しかし――またもや。

 事件は発生してしまう。


 ❝過冷却スーパークーリング


「んぅ? なんか急激に水が冷たくなってきたような」

 骸骨少年はブルブルと身体を震わせた。


「そうか? 俺はなんともねーけど」

 未だに火炎に守られている灯火はなにも感じなかった。


「空気の流れが変わった。なんか急に、吹く風が冷たくなって。空気が冷え込んでいる?」

 虚空も異変を察知し、灯火にこう言った。

「熱探知を使って上流の水温を計測してみて。なんかおかしいから……」


 灯火は指示通りに水温を計測した。

 すると、あり得ない数値が彼の口から飛び出した。


「マ……マイナス5度」


「マイナス5度だって?」

 骸骨少年は驚愕した。

「それじゃあこの川は凍っているはずでしょ? ねえ、お姉ちゃん」


「いいえ」

 虚空はなんとか平静を保ちながら。

「水は0度以下になっても、ある条件を満たさなければ凍らないのよ」


 氷っていうのは水分子同士が結合して出来る結晶体のことなんだけど、その水分子同士を結合させるにはわずかながらにエネルギーが必要となるのよ。そのエネルギーはなんでもいいわ。とにかく衝撃を与えられれば(以下割愛)。


「要するに動かないことね。動いたらその瞬間、氷漬けよ」


「えーっ!!!!」

 恐れをなして、一歩身を引いた瞬間。

 ぴきぴきぴきぴき。と。

 まるで液体窒素を彷彿とさせるがごとく。

 周囲の水はまたたく間に凍っていった。

「えっ? えっ?」

 そうして骸骨少年の下半身は。

 すっかり氷漬けになってしまったのである。

「えーっ?」


「しまった」

 体温の低下が、意識レベルの低下を誘因し。

 虚空の肉体はぐらりと(かし)いだ。

 ぴきぴきぴきぴき。と。

 無慈悲にも凍結していく河川。

「…………」

 もうすでに限界だったのだ。

 手足の感覚はマヒしていたし。

 親子2人を支える力もなくなっていた。

 そうして体勢を崩してしまった彼女だが。

 背面から水面に叩きつけられ。

 親子もろとも、全身氷漬けになった。


「お……お前ら」

 反射的に、灯火の身体が動いた。

 ぴきぴきぴきぴき。と。

 水分子が結合していく音が鳴った。

「はっ?」

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