16.今こそ決行のとき
❝小規模氾濫❞
「おいおい、なんか水かさが増してねーか?」
灯火は大した確証もなく呟いた。
「たしかに水流が速くなっているような……」
虚空も同調した。
「でも雨は降ってねーし、気のせいか」
と。
灯火が言いかけた瞬間。
上流に設置されている小滝が、轟音をとどろかせた。
まるでダムが決壊したかのように、水が溢れだし。
その勢いに押されて、岩や木材が流されていた。
当然。
骸骨少年の家族も、天災による被害を受けた。
立っていられずに、尻もちをつき。
そのせいで全身を水流に支配されたのだ。
溺れた彼らは、もはや泳ぎの体裁すらなしておらず。
大の人間と、小の人間が。
笹船のようにして、押し流されているのであった。
「ぐうっ」
骸骨少年は奥歯を噛みしめた。
お母さんとお兄ちゃんを助けたい。
だけど、助けられるわけがない。
――複雑な思いが意地悪く交錯する。
そんな中。
ふと、灯火のある発言が脳裏をよぎった。
【いつまで経っても『出来ない理由』ばかり探して、そうやって自分に言い訳して生きてきたんだろ?】
「違う……」
声に出して否定する、骸骨少年。
【なにもしようとしない、なにも出来ないお前が、なんでも出来るという根拠はあるのか?】
「根拠なんかなくったって、やるしかないだろ?」
【出来るか、出来ないかはあとでわかる】
「そうだ。ぼくがやるんだっ!」
もうすでに、少年の双眸から迷いは消えていた。
まるで霧が晴れていくように、サッパリとした面持ちで。
「ぼくが助けるんだっ!」
骸骨少年は衣類を脱ぎ捨て、氾濫した河川に飛び込もうとした。
が。
「待ちなさい」
木の枝のように細い腕を、がっしりとつかまえられて。
少年の足が止まった。
「あなたじゃ無理よ」
虚空は力強く言った。
「離してよ、お姉ちゃん」
少年は虚空の手を振りほどこうとするが。
その華奢な身体では、虚空をビクともさせられなかった。
「大丈夫だから。彼に任せなさい」
「彼?」
ただならぬ恐怖心により、骸骨少年の声は震えていた。
これから入水自殺をするようなものだったのだ。想像以上の覚悟が求められていたのだろう。
「ええ、彼よ」
虚空が見つめる視線の先には。
パンツ一丁で、猛然とダッシュしている灯火の姿があった。
東炎扇をがっちり握りしめて。
灯火は親子2人の救出に乗り出した。