15.骸骨少年の『出来ない理由』
「だれだ、お前?」
灯火は、陰気な顔をしている骸骨少年に話しかけた。
「見てわからないの? あそこにいる親子連れの、末っ子の兄弟だよ」
骸骨少年の推定年齢は、小学生の低学年くらいだが、それには不釣合いなほど大人びた言葉遣いをしている。
その言葉遣いが、彼の決して楽ではなかったであろう半生を、物語っていた。
病弱ゆえの知的武装。
喧嘩は弱いくせに、口喧嘩では滅法強いタイプなのだろう。
「ああ、そう。で、お前は泳がねーの?」
灯火は楽しそうにはしゃぐ親子を観察しながら。
質問を投げかけた。
「ぼくは見ての通り、病弱だからさ。そんなことは出来ないよ」
悲しそうに下を向く、骸骨少年。
その表情は早くもあきらめの様相を呈していた。
「へー、それはずいぶんご立派な思想だ。無理だと思ったらあきらめるってか?
負け犬根性が骨にまで染み付いていやがるぜ」
「な、なんだと?」
「いつまで経っても『出来ない理由』ばかり探して、そうやって自分に言い訳して生きてきたんだろ?
俺にだって出来ない事はいっぱいあるよ。テストをすれば赤点とるし、進路相談では進学先がないって担任に嫌味を言われるし……。
でもな、それでもみんな『出来る理由』を探して、必死にもがいてんだよ。何度も何度もおぼれて、沈められて、負けて、そうやって強くなっていくんだよ。
初めから不可能だなんだと逃げ回り、結局はなにも始めようとしないお前なんかが言っていいセリフじゃねえんだよっ!」
「よそのお兄ちゃんが、ぼくのなにを知っているって言うんだよ。この障害のせいで、ぼくがどれほど苦労したか……」
「そうだよ、灯火。相手は子どもなんだし、多少は斟酌してあげようよ」
虚空は骸骨少年に同情したのか、彼をかばうような発言をした。
「だったらさ。
もし病気が治ったらよ、今度はなんて言い訳するつもりなんだ? 骸骨少年さんよ」
「言い訳なんかするもんかっ!!!!
ぼくが健常者だったらなんだって出来るさ」
「なんでそう言える? その根拠はなんだ?
なにもしようとしない、なにも出来ないお前が、なんでも出来るという根拠はあるのか?」
「そっ……それは」
骸骨少年は口ごもったが。
「安心しろ、根拠はある」
灯火がすぐにフォローを入れた。
「じいちゃんがいつも言ってんだ。
『物事を必ずやり遂げると決意した人間は強い。その者はどんな苦境にも屈することなく、実際にそれをやり抜く』ってな。
お前にそれだけの覚悟があるんだったら、これからなんだって出来るさ」
「本当?
もうクラスのみんなにバカにされないで済む?」
「さあな。そんなのは自分の努力次第だし、どれだけがんばってもバカにしてくるやつはいる。けどな、まず自分から変わらなきゃ、なにも変わったりはしないぜ?」
「ぼくはこれからどうすれば良いの?」
「なんでもやってみれば良い。
出来るか、出来ないかはあとでわかることだ」
骸骨少年は、ぎゅっと下唇を噛みしめて。
決意に満ちた目で、こう言った。
「ありがとう。よそのお兄ちゃん。
ぼく、がんばってみるよ!」
灯火は。
キラキラと光る骸骨少年の瞳を一瞥し。
「がんばれよ!」
と。
優しく言った。
そしてこれから。
無情にも、事件は起きるのだった。