表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四つの扇  作者: オリンポス
3章:捲土重来を期する、東家と西家!!!
14/101

14.傷心の河川敷

「うっ……。いつつ……」

 肘関節の痛みで、灯火は目を覚ました。


 失神後の目覚めとしては最低だったが、その痛みがきつけになって、すばやく意識を取り戻せたのも事実である。


「あれ、ここは……!?」


「ようやく気が付いた? あなたがそんなだと、西家(わたしたち)まで安く見られちゃうんだからね」


 虚空は腰に両手を当てて。

 不満げに口を尖らせていた。


「南家は、土竜は、どこに行った?」

 鈍く軋む腕をかばいながら、灯火は立ち上がった。


 短く刈られた草は、太陽の光を浴びて気持ち良さそうにしていて。

 潺潺と水が流れる河川では、母親とその息子と思しき男の子が元気にはしゃいでいた。


「見てわかんない? 敗走したのよ。私たちは」


「学校は? クラスのみんなは?」


「クラスの子たちは、消防隊員に救助されてたみたいよ。学校はしばらく休校で、地盤の調査をするみたい」


「なんで俺は、河川敷にいるんだ?」


「私が、運んであげたのよ」


「運んだ?

 そうだ、東炎扇はどこにある?」


「ちゃんと取ってきたわよ」


 そう言って扇を手渡す虚空の手には、たくさんの傷がつけられていた。


 いや。

 手どころか、身体中である。

 顔も足も、まさしく満身創痍だった。


「ボロボロだな。俺たち」


「それでも敵わなかったね。

 土竜は言ってたよ。1週間後くらいに扇をもらいに来てやるって……」


「それだけ余裕なんだろ? 今の俺等からなら簡単に奪えるだろーに」


「ホント。悔しいなぁ。負けてばっかでさ」

 虚空はうつむいて。

 灯火から顔を背けた。


「ん? どうかしたか」


 西家のプライドを守るため。

 毅然と振る舞い。

 泣くのをこらえていた虚空だが。

 もうとっくに、限界を迎えていた。


「うっ……。ひぐっ。だ……だってさ。私のせいで、西家(かぞく)まで悪く言われてさ」


 ボロボロと大粒の涙を流しながら、虚空は続ける。


「悔しいなぁ、もっと力が欲しいなぁ。身内がバカにされないくらいにさ。すんごい力が。そうすればもう、だれにもバカにされないで済むんだよね」


「力、か」


 灯火は思いっきり、伸びをする。

 肘を真っ直ぐに伸ばして。

 激痛が走ったが、どことなく気持ちが良い。


「そんなもん無くったってさ。

 たとえ無力でも、ひとは必ずだれかの力になれる。俺はそう思うけどな」


「力に、なれる?」


「そうだ。運動が苦手なら頭で考えれば良いし、頭が弱ければ身体を鍛えれば良い。

 本当の意味で無力な人間なんて、この世には存在しねーんだよ」


「そう……かな?」


「きっとそうだ。

 他人からなんと言われようと、自分で自分のことを信じてあげなきゃ、いつまで経っても指針はブレるばかりだぜ?

 東家には東家の。

 西家には西家の。

 南家には南家の。

 それぞれの戦いかたがあるんだから、まずはそういうのから認めていくべきなんじゃねーかな」


「そう……だよね。うん、ちょっと励まされた」


 言いながら、灯火は反省していた。

 今日の体育の授業だ。


 サッカーに限らず、なにをやっても連係プレーが苦手だった。

 足が速い人、パスがうまい人、シュート力がある人、ディフェンスに定評がある人。

 色んな人がいるのに、それを認めようとはしなかった。


 虚空への励ましは、自らの改善点へと繋がっていたのだ。


「綺麗事だよ。お兄ちゃんたちさ。本当の意味で無力な人間も、ちゃんと存在するんだよ」


 しかし。

 あっけなく論を覆す人物がいた。


 まだ年端のいかぬ少年である。

 体脂肪はほとんどなく、あばら骨やら肋骨やらが、露骨なまでに浮き出ている。


 まるで。

 骸骨に人間の皮袋を被せたかのような、異常な痩せかただ。


「きっとぼくなんかは、家族の中でも足手まといなんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ