11.西家の助太刀
蟹、という比喩表現がピッタリと当てはまるだろう。
灯火は過度のストレス、痛み、恐怖、それぞれがあいまって。
蟹のようにぶくぶくと泡を吹いて失神してしまったのだから。
「ふんっ、情けない。それでも羽柴家の後継者か」
土竜は一気に力を込める。
「東家の者よ、これで終わりだッ!!!!」
と、そのとき。
ビュゴォッ!!!!
と。
爆発的な突風が発生し。
灯火と土竜を、十把一絡げに飲み込んでしまったのである。
彼らはまるで塵芥のように吹っ飛び、サッカーゴールの背面に頭から突っ込んだ。
ゴールネットは大きく揺れ、その衝撃でサッカーゴールは転倒してしまった。
これほどの威力。
それを突発的に繰り出せる者といえば。
「扇の所有者……。風といえば、西家の者か」
ハンモックのようになったゴールネットから、体勢を立て直し。
土竜は虚空に向かって言った。
「軟弱な西家がなんの用だ? 東家の者でもオレには歯が立たなかったんだぞ?」
「そんなの関係ないわよ。私を、いいえ、西家を、東家といっしょにして考えないでよ」
虚空はギリッと奥歯を噛みしめた。
「舌先ではなんとでも言える。文句があるなら実力で示せっ!!!!」
「ええ。そうさせてもらうわ」
「ここでは戦いづらい。場所を変えようか?」
「どこでもいいわよ」
「それなら人間らしく、扇を使ったバトルを展開しようじゃないか」
「ええ、最初からそのつもりよ」
西家の虚空と。
南家の土竜は。
前庭に移動した。
前庭は校門と正面玄関のあいだにあった。
地面はアスファルト。
校門から入って――真正面には。
学問の神様『菅原道真』が鎮座している銅像がある。
校舎から見て――右手がグラウンド。左手が体育館。裏手が焼却炉となっている。
体育館の付近には駐輪場があり、教師用の駐車場も同じところに設置されていた。
「いくぞっ!!!!」
まず動きをみせたのは、南家の土竜だ。
扇を横薙ぎに振る。
しかし――なにも起こらない。
「うかつに動くと怪我をするぞ、西家の者よ。この技は、陥穽の法則と言ってな。南家の者以外に破ることは不可能だ」
「なによ。それがどうしたっていうの?
勘違いしないでよね。こっちだってさっきの、爆裂砲台固定キャノンよりも強力な技を持っているんだから」
「技名が中二病だな、西家の者よ」
嘲笑にも似た視線を送る土竜。
戦闘狂の彼にしては珍しい仕草だった。
まあその仕草も、土竜が着用しているポンチョが隠しているのだが。
「あんたに言われたくないし……」
「だったらかかって来いよッ!!!!」
「それは嫌よッ!!!!」
虚空は腰に巻いているウエストポーチからガラス片を取り出して。
空に投げた。
そして重力によって落ちてきたガラス片を。
「局所的突風(風速40メートル)」
扇で吹き飛ばしたのだ。
「喰らいなさい。五月雨式硝子旋風」
無数のガラスが容赦なく、土竜の肢体を切り刻んでいく。
ポンチョはズタボロになり、鮮血がしたたり落ちた。
だが、それでも。
土竜は哄笑する。
流血など意にも介さず、ニタリと口角を上げて。
「思ったよりも楽しませてくれそうだな、西家の者よ。さあこれからは、楽しい殺戮ショーの始まりだ」
「ほざきなさい。警察が来る前にのしてあげるわ」




