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四つの扇  作者: オリンポス
2章:戦闘狂の南家、出陣!!
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10.圧倒する南家

 老人は心配していた。

 灯火が、東炎扇の魔力に取り憑かれてしまうことを。


 戦闘において、東炎扇はこの上なく便利な代物だ。使い方によっては拳銃よりも強力な武器となりうる。


 しかしそのぶん。

 依存性も含まれている。


 ピンチのときに、いつもいつも扇に頼っていたら。

 東炎扇(それ)なしでは、まったく戦えなくなるのではないか。


 それが老人が憂慮している事態であった。


 念のため、友好国である西家に後方支援(バックアップ)を要請してはいるが、いつなん時戦闘になるのかわからない。

 もしかしたら、肝心な場面で居合わせない可能性だってあるのだ。

 よって西家も当てにはできなかった。


 そんなことだから、もしも灯火がひとりで南家と戦うようなことがあれば。

 十中八九敗北する。


 どうか……。

 どうかまだ南家とは戦闘にならないでくれ。


 老人は祈るしかなかった。




「くっ……。はあはあ」

 片膝をついて、呼吸を整える灯火。


「ようやく観念したか、東家の者よ」

 対する南家の土竜は。

 息ひとつ乱してはいなかった。


 逃げていたのだ、羽柴灯火は。


 圧倒的な実力差を前に、なすすべなく。


「観念したか、だと? 馬鹿も休み休み言えってんだ、南家の馬鹿め」


 ざりっと――グラウンドの砂を握って。

 立ち上がる。


 文字通りの一握の砂。

 反撃ののろし。


「行くぞっ!!!!」

 灯火は瞬時に立ち上がり。

 土竜の両足をつかみにかかる。


「タックルは主にカウンター技として使うものだ。よく覚えておけ、東家の者よ」


 腰を落として、土竜は迎撃体勢に移行した。


「くらえっ」

 灯火はすくい上げるようにして、土竜の顔面に砂をぶつけた。


「ちいっ!!!!」

 ぶんっと。

 ポンチョの中から、蹴りが出現する。

 もちろん狙いは定まっておらず、空振りに終わった。


「悪いが、揚げ足を取らせてもらうぜ」


「しまった……」


 灯火はカウンター技として、片足タックルを仕掛ける。


 土竜の体軸は安定していなかったため、彼はいともたやすく転倒を余儀なくされた。


 しかしそれは、土竜の罠だった。


 戦闘慣れしていない灯火は、寝技を習得していない。

 すなわち土竜の身体を物理的に押し倒せても。

 追い討ちをかけることが出来ないのだ。


 もちろん、寝技以外にも攻撃手段はあるのだが。

 灯火は攻撃をためらってしまい。

 屈んで、土竜の様子をうかがっていた。


「やはり甘いな、東家の者よ。親御さんにそっくりだ」


 土竜は仰向けの姿勢から、灯火の襟元を引っ張った。

 地面に突っ伏すかたちになる、灯火。


 灯火の後頭部を押さえつけながら。

 ぐるんとローリングして起き上がると、土竜はストレートアームバーと呼ばれる関節技を仕掛けた。


 肘の関節部分を固定して、可動域と反対方向にへし折る技。


「ぐぎぎぎぎっ…………!!!!」


 必死の形相で抗う灯火だが。

 彼の力など。

 肘を完全にロックされた状態の、彼の力など。


 まさしく。

 蟷螂(とうろう)の斧にすぎなかった。


 ミシミシ、と。

 すこしずつ肘を反対方向に曲げていく土竜。


「ぐぎゃああああっ!!!!」


 肘が逆向きに曲がる角度は、約5度といわれているが。


 土竜はそれ以上の角度で、ゆっくりと。

 木の枝を折らずに、軋ませる要領で、ゆっくりと。

 角度を増していった。


「痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いた痛いたいっ……!!!!」


 あまりの激痛に、泣き叫ぶ灯火。


 空いている手で地面をバンバンと叩き、両足をバタつかせ、目尻に涙をためながら。

 必死に許しを請うた。


 しかし――土竜にとってのそれは。

 愉悦以外のなにものでもなかった。


 ポンチョ姿の男は、べつに、ためらっているからゆっくりと関節技を決めているのではない。


 ゆっくり……ゆっくり……と、時間をかけて。

 なぶり殺す快感を、味わっていただけだ。


「…………ぁ。ぅぇ……。ぃっ。くはっ…………」


 だらしなく開かれた灯火の口からは。

 両の端から、よだれが垂れていた。

 目の焦点も合わなくなってきている。


 肘の角度に比例して、意識が遠のいているのだ。


「東家の者よ、これで終わりだっ!!!!」


 土竜は一気に力を込める。

 意識が薄れていく中で、灯火は関節がはずされるのを覚悟していた。

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