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-9-

ハルトは呆然と立ちつくしていた




さっきまで、ざわめいていた高原の雰囲気は




うそのように、静まりかえっていた




高原のむこうでは、ハルトの家畜たちが、なにごともなかったように




草をたべている




晴れ上がった空には、あいかわらず季節を告げる渡り鳥と




居留地を監視する飛行機械がゆるやかに飛んでいる




根元から折れた木製の剣と、銃身を切り取られた軍用拳銃の先端が




ハルトの足下にころがっている




ハルトはまるで夢でも見ているような気分であったが




すぐに現実に引き戻された




「たいへんなことになった!、おじいさんどうしよう」




自分の軽率な行動が招いた結果ではあったが




まだ少年にすぎないハルトにとっては




どうすることもできない現実であった




無性に腹が立ったが、忌み嫌われた民の子にとって、何もできないことが




いたいほどわかっていた




急に目頭が熱くなり、なみだが止めどなく流れた






その時、ふいに




ハルトの居たあたりの草が大きく波打ったかと思うと




円心状にひろがりはじめた




草陰にかくれていた、野鳥が数羽 けたたましい鳴き声をあげて




飛び立った




感情にわれを忘れていたハルトは




最初きがつかなかったが、見ると




さきほどまで、はるか上空をゆったりと飛行していた飛行機械が




ハルトの頭上までせまっていた




すさまじい爆音があとからやって来た




間近で見るその飛行機械は




ずんぐりとした龍のように思われた




コクピットと思われる半透明の部分から 飛行士が体を乗り出して




片手で何かの手振りをしている




どうやらハルトにたいして、脇へよけろということらしかった




ハルトはわけがわからなかったが




先ほどの一件もあり、足下の折れた木製の剣をひろうと




草むらのなかで、身をひそめた





飛行機械は高速で回転するローターを、垂直にしたかと思うと




いっきに地上へと着陸した




ローターの回転はしだいにおそくなり




やがて止まった




コクピットから、飛行帽に飛行服すがたの兵士がいきおいよく飛び降りてきた




ハルトは一瞬逃げようと思ったが




さきほどの一件が脳裏によみがえり




半ば自暴自棄になっていたのか、折れた木剣を体の中央に構えると




草むらから、飛行士に向かって近づいていった




それを見ていた飛行士が口を開いた




「少年、勘違いしないで、別に君をどうこうしようというわけじゃないの」




その声は高原のそよ風にも似た、涼やかな声だった




女性兵士だった




ハルトはあいかわらず今にも突進しそうな表情だったが




兵士はかまわず続けた




「さきほどの一件、上空から見ていたわ、あの偵察分隊の隊長、最低ね




 悪いのは彼らよ、あなた方は悪くない、あのおじいさんはお気の毒に」




ハルトは少し、面食らっていた、今まで接してきた兵士のイメージとは




あきらかに違っていた




ハルトの民に対して敵意がないように思われたが




それもうわべだけのことかもしれないと警戒していた




「あなたが、我々を恐れるのも無理もないわね、何千年も虐げられてきたんですものね




 同情するわ、でも信じて欲しい、少なくとも私は敵ではないわ・・・」




そこまで言うと、突然ハルトが声をあらげてさえぎった




「恐れてなんかいない!  憎しみだけだ!」




それを聞いた兵士は、にっこりと微笑んだ




「いいわね!その調子、少年!あなたガッツがあるわ、さっきのタックルもよかったわよ




 ハルトの民はその昔誇り高い剣士の一族だったけど、最近は牙を抜かれた猛獣のようだった




 あなたや、あのおじいさんを見てやはり、伝説の民だと思ったわ」




「ところで・・・」




そういうと兵士は急に、低い声になって、射るような視線をハルトに向けた




「あのおじいさん、ただものではないわね、上空から見ていて、何かが光っていたでしょう




 もしやと思って、降りてきたの」




兵士は、足下に転がっている軍用拳銃の切断された銃身をひろいあげた




「これね、君はこれについて何を知っているの?教えてくれない?」




ハルトは反射的に、答えてはいけないと思った




木製の剣を構えて言った




「し、しらない!」




兵士は困惑したような表情を、みせて




「まあ、いいわ、今はあなたも動揺しているようだし、また会いましょう、いつも上空に居るから




 もう任務にもどらなきゃ怪しまれるわね、これもらっていくわよ」




そういうと、切断された銃身を飛行服のポケットに入れた




「言い忘れたわ、私は 王立飛行軍、居留地警備隊 メルダース中尉・・あなたは?」




兵士のにこやかな笑顔に、反射的にハルトは答えてしまった




「ハ、ハルト」




「へえ〜、ハルトのハルトのハルトかあ、直系ってわけね、これは面白くなりそうだわ




 それから、言っておくけど、私はあなたの敵ではない、むしろ味方ね、それだけは




 信じていいわ、まだ理解できないかもしれないけど、王国も一枚岩ではないということ




 それだけは、おぼえておいて・・それじゃ」




そう言うと兵士は飛行機械の方へ足早にかけていった




ハルトはとっさに叫んだ




「教えて、おじいさんはどうなる?」




「大丈夫よ、すぐもどってくるでしょう、あの司令のことはよく知ってるから分かるの、

 

 でも言っておいてやつらは何かを探しはじめるでしょうと」




そういうとコクピットに乗り込み




半透明のキャノピーを閉めた




ローターが唸り声をあげてゆっくりと、回り始めた・・・・


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