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「おまえ、街に行ったのか?」
老人はいぶかしそうな顔をして聞いた
「ああ、この前とうさんと市場に行ったよ、街ってすごいんだねここらと全然違うね」
「ラウルの奴め、外の世界を見せるには早すぎると言ったのに」
「とうさんは悪くないよ、僕がせがんだんだ。レネの誕生日の贈り物をどうしても自分で
選びたくて・・・」
「そうか・・レネの・・・あの娘も来年は15歳じゃな、今年がこの村で過ごす最後の
誕生日か・・不憫な」
そういうとふたりとも、黙って草の上に腰をおろした
この村の娘で、長女は15歳になるとメギドの王宮へ女官として連れて行かれるのが
しきたりとなっていた。
一度村を出て帰ってきたものは、体でもこわさないかぎりめったになかった
実質的な人質である。
ハルトとレネは幼なじみであった、ハルトの両親は放牧を家業とする農家で
レネは村で唯一の雑貨店兼居酒屋を経営する両親を持ち、5人兄弟の長女であった。
ふたりは家が近いこともあり幼い頃からよく遊んだ仲良しであった
老人は腰に下げた袋から、大きな木の実をとりだすと、ハルトに渡した
「食べるか?」
「うん・・」
そう言うとふたりは無言で木の実をかじり始めた
空には太陽が高くのぼり、季節を告げる渡り鳥が見える
遠くの空では、銀色に輝く飛行機械がすこしづつ遠ざかって行くのが見えた
おもむろにハルトが口を開いた
「おじいさん、どうしてこの地方だけ、こんなに悪くされるの?街のひとの暮らしとも
全然違うし・・」
ハルトは街にいった時、あまりの生活の違いに驚いていたのだ。
メギドを中心とするこの惑星の文化は、科学技術の進化もあって、宇宙に人を送り空には飛行機械が
あふれ、生活のすべてが、自動化されるなど、目を見張るものがある
一方で、ハルト地方だけはひとの移動も制限され、最新の文化はおろか、機械を使うことも
許されない。
それは有史以来続いてきた習慣であり、憲法にも明記された「HALT法」により
固定化された差別の構造である。
はじまりは何であったのか今は知るひとも少ないが、何十億というこの惑星の
わずか1万人にも満たない少数民族にすぎないハルトの事
声をあげても誰の耳にも届かないことは明かである
「恐れじゃよ・・」
老人がぽつりと言った
「恐れ?」
「奴らは恐れているのじゃ・・・・」
「何を?」
「血じゃよ・・・ハルトの血筋を恐れているのじゃ」