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憲兵隊の司令はわざといらだってみせた
「お前が持っていたこの剣は、ただの刀剣ではあるまい、鋼鉄の銃身がどうして切断できるというのだ
いいかげんに白状しろ」
ピオじいさんは少し狼狽して見えたが、それが演技であるのか
偽りのない姿であるのかは分からなかった、後ろ手にされた両腕には
鈍くひかる手錠が、年老いたしかしたくましいその手首に食い込んで
かすかに血がにじんでいた
もう何時間こうしているだろうか
陽ははすでに暮れ、罪人や規則に違反したハルト族を拘留するための
コンクリートでつくられたその重厚な拘置所は
めったに使われることもなく
よほどの重罪犯でもないかぎりここで尋問されることなど希であった
壁にかかった拷問の道具も、ほとんどは錆び付いていて
今では
罪人を精神的に畏怖させるぐらいにしか 用をなさないように思われた
しかし、その重厚なデザインとサビついた色彩は
そのまま
ハルト族の迫害の歴史の古さを物語っているように思えた
それまで、司令の尋問を聞いていたピオじいさんは
ふいに何かを思いついたように口を開いた
「何度言いますが、その剣は代々わが家に伝わるもので、例年の武器検査も通過してきたものです
なんら不思議なところはありません。
私は元鍛冶屋ですから金属のことはよく知って居るつもりですが、失礼ですが
あの拳銃の鋼鉄の鍛錬の過程で、なんらかの不純物がまじり、
硬性に問題があったとしか思えません
金属を扱うものとして言わせてもらえれば・・・・」
そこまで言うと、司令がピオのその言葉を待っていたかのように
ピオの次の言葉をさえぎって言った
「不良品だったということか?」
そう言うとピオの落ちくぼんだ目をのぞき見るように見つめた
一瞬二人はお互いの瞳をみつめて
何かを探り合うような緊張が感じられたようだが
ピオは静かに答えた
「おそらく・・・・」
次の瞬間、司令はその甲高い声で笑い始めた
「ククク・・そうか・・・ハハハハ」
「国王よりの大切な武器を、不良品呼ばわりとは許せんが、まあお前の言うことにも
一理ある・・・たしかにはずかしい話だが、この宇宙に植民地を持つほどの
わが王国の科学技術を持ってしても、例年作動不良を起こす武器は少ないとは
お世辞にも言えない、もっともこれは製造技術に問題があるのではなく
原料の鉱石に問題があるのだがね・・・」
そう言うと司令は、側に立っている衛兵に何かを話し始めた
ピオには何を言っているのか聞き取れなかったが
あきらかに今後のピオの処遇について話しているように思われた
ひととおり話すと
司令はピオの方を向き直って言った
「お前の処分については私に一任されている、今回の件は不問とし、釈放する
少年に銃を向けたのは、私も感心せんからな
人的被害もなかったのだから、正当防衛ということでいいだろう
しかし、国王の武器を破壊したのはきわめて遺憾であるから
お前のこの剣は没収とする・・・・いいな? わかったら帰れ!」
ピオじいさんは、何度もおじぎをして答えた
衛兵がピオの手錠をはずし
出口へとせきたてていった
その様子を司令は無言でみつめていたが
ピオが拘置所のとびらを出る間際に後ろから呼び止めた
ピオはおもむろに振り返った
「ピオ、鍛冶屋としてのお前に意見を聞きたい、良質な金属を錬成するのに
何が一番いいのか・・・たとえば
伝説の 隕鉄 とか?」
一瞬ピオのまなざしがするどく光ったように思われたが
すぐに、やさしい老人の目つきに変わり答えた
「 隕鉄? ははは・・・あんなものはただの伝説でしょうな
わしもお目にかかりたいものです」
そう言うと衛兵とともに、暗くなった扉のむこうへ消えていった