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天然荘の魔女  作者:
怠惰の女王
7/8

怠惰の女王は去る

こんにちは


今回でやっと怠惰の女王篇が完結します。


令嬢の本名今回こそ出そうと思ってます。

魔女の店をシュタインに話した魔女の因縁の相手も少し出ます。


人を愛したら人が変わる。

恋をしたら綺麗になれる。


そんな言葉を意識して執筆してみました。

「まったく、誰があの子を引き取るのかで揉めるだなんて可哀そうじゃない」


「じゃあお前が引き取ればいいじゃないか」


「いやよ、あんな子、考えただけで寒気がする」


「私だって…小さい子供が二人もいるのよ」

「そんなの言い訳じゃないか」


「言い訳!?あなただってそうじゃない」

「あんな黒い子供を引き取ったら誰だって世間体を気にするだろう!おまえだって…」



耳元でぶつぶつと黒い服を着た大人たちの声が痛いほど聞こえた。


あんな黒い子供…。


その言葉を聞いて自分だとすぐに分かった。


自分も好きでこんな容姿に生まれたんじゃない!


叫びたくても言葉は出てこなかった。

他の子どもと違って黒い髪、黒い瞳…。


なんて自分はみじめなんだ。


こんなことになるんだったら



生まれてこなければよかったんじゃないか。











「いい加減…」






「起きろこの疫病神!!」






その声が聞こえた途端腹に激痛が走った。


「いだああああああ!?」


少年、キクはすぐに体を起こした。

一瞬頭がふらつくがなんとか体勢を保つ。

そこには良く知った無愛想な顔をした師匠・レンカがいつか令嬢を椅子から落とす‘てこ‘として使われた箒を持ってこっちを見ていた。


「ぐうぐう一日寝て今頃お目覚めか、この役に立たない疫病神が。馬鹿が」


寝起きに一発罵られたキクはえっと声を挙げた。


「おれ、そんなに寝てました!?そういえばなんで寝てたんだ…」


キクは頭の中で記憶の糸を手繰り寄せる。


確か令嬢がジョギングしてて

居なくなったから憤慨したレンカさんに逃れるように探して

馬鹿でかい庭にあった塔に入った途端…。


(たたたたた大変だ!)


「令嬢は無事ですか!?」


キクは半分悲鳴混じりに叫んだ。


「もやしのようなお前がぶっくり肥えた豚のクッションになったおかげでな」


レンカの淡々とした回答にキクはほっとした。

一応お偉いさんの娘を任された身である、彼女の身に何かあったらどのような処分になるところだったのか…。


(頭打っても令嬢が無事で良かった…)


命と引き換えに頭を打つことなど安いものだ。

キクが胸をなでおろし安堵したが


「まあ、昨日役に立たなかった分死ぬほど働かせてやるから心配するな」


という魔女の一声で先ほどの安堵は風と共にきれいさっぱり消え去ったのだった。






軽く身だしなみを整えて貴族の館内を歩くと多少変化が見られた。

まずはメイドだ。

前はかなりよそよそしかったり避けられたりしていたがキクが歩いていると



「お体、大丈夫ですか?」



と声を掛けてきた。


キクは最初当惑していたが段々気が楽になってきた。

普段はキクの漆黒の髪と瞳を気味悪がり裏町でもなかなか仲のいい人が少ないが何故か声を掛けられ気遣ってくれる態度に戸惑ってしまう。


しかし内心嬉しかった。


(こんな容姿でも受け入れてくれる人がいる)


生まれてこなければよかった。


そんな昔の言葉はこれだけでもいとも簡単にきれいさっぱり消えてくれるのだ。

メイドたちの態度が変わったのはどうやらキクが落ちてきた令嬢の下敷きになってくれたおかげで令嬢が怪我をせずに済んだという見方かららしい。



もう一つの変化。

それは令嬢の態度だった。

いつもは重い体を半ば引きづりながらなんともだるそうにグダグダしながらも仕方ないという風情でレンカの組んだスケジュールをこなしていたが今、キクがトレーニングの最中を覗いてみると何かが違った。


(おや?)


それは一体なんだろうとじっと見ているとだんだんわかってきた。


それは取り組む姿勢だった。


背筋をぴんと伸ばし自分で体を自主的に動かす令嬢の姿だったのだ。

多少レンカの罵倒にしかめっ面をしながらもやはりその姿勢は変わらなかった。

最近は肌にも気を使い始めて新しい日傘を買ってもらったらしいとメイドのうわさを聞いた。

今まで何も興味を示さなかったお嬢様が。


(まるでおれが頭を打った日から人が変わったみたいだ…)


たまにまさか自分が寝ているときに誰かがこっそりと令嬢を変えたんじゃと疑ってみたがレンカがそれを見逃すわけないと頭を横に振った。


中身がすっかり変わった令嬢は見た目も日に日に変化が見られた。

見るたびに痩せているのだ。

ずんぐりとしていた時と違い贅肉に押しつぶされそうだった小さく薄い青い瞳はぱっちりとした二重となり濃い青い目がはっきりと見えるようになった。

つやを失くした金色の髪は神々しく輝き始めている。


(ひょっとして本当は結構美人なのかも)


恐ろしいほど甘ったるいお菓子が彼女の美貌を隠していたのかもしれない。


好ましいほどすっきりしていく令嬢の反面キクは複雑な気持ちだった。

それは令嬢と顔が合うたび避けられてしまう事だった。

令嬢はほんの一瞬キクの漆黒の瞳を見た途端顔を真っ赤にして駆け足で逃げて行った。


(そんなに怖がらなくても…)


馴れてはいるがやはり内面落ち込んでしまう。

そうこうしているうちに令嬢の成人を祝うパーティー前夜になった。







小さな満月が美しい庭先を照らす夜、大きく豪奢なエントランスホールにこの広大な屋敷の主が姿を現した。



いよいよ明日は愛娘の成人パーティーだ。



愛妻が重い病にかかり亡くなった時から蝶よ花よと大事に育ててきたつもりだった娘が気づいたときには大量の脂肪をその体に抱えていた。

何も興味を示さず、ただその口に菓子を放り込む毎日を過ごし我ながら危機感はあった。


しかし母親もいない憐れな子だという思いが足枷となり見て見ぬふりをし続けた。


そんな生活にはパーティーという壁があった。



なんとかしなくてはならない。


そうやっと焦り始めたのは十七になって半年が過ぎたころだった。

心を鬼にせねば私の立場も、娘の立場も、ましてや王の右腕としての名を汚すことになる。

しかし今まで慎重に隠していたこのでっぷりとした娘をダイエットとして名門の医者に見せることは気が進まない。


焦る一方だった。


せめて知り合いに地位も名誉もない誰も知らないような、しかし医学に詳しい、そんな者がいたなら。



「何かお悩みでも?よかったら相談に乗りますよ」



そうして声を掛けてきたのは資金援助しているとある青年だった。


秀才と呼んでもいいほど頭の良い青年で裏町育ちのため未来投資という形で援助しているのだ。

たまに屋敷に招待し近況報告をしながら食事をすることがある。


あの日は近くまで用事があった為様子を見に彼の部屋を訪れた。


青年に見抜かれ少し躊躇したが、ふと彼が裏町育ちだということを思い出した。


裏町とは名誉も金もない者たちのごろつき場だ。


しかしもしかしたら…何故か治療などする金もないはずなのに疫病がはやらない裏町に臨んでいる人材が存在するかもしれない。


そう考えると自然に口から零れていた。

青年は考えるような仕草をしたがすぐにいつも通り人の好い笑顔に戻り


「知ってますよ、一人くらい」


と言った。


「ほう…!それはどこいいるのだね!」


私は食いついた。


青年の目は遠くを見つめていた。


「そうですね…調べればすぐに分かるんじゃないでしょうか。大変恐縮ですが教える代わりに私が言ったという事は誰にも…もちろん本人にも秘密にしといてくれませんか」


私はその言葉を不思議に思ったが快く承知した。


「それでは裏町に使いでも寄越して調べてみてください…生憎名前は忘れてしまったのです、昔のことですので。…彼女は女です…そして皆にこう呼ばれているはずです…天然荘の魔女…と」


青年はそういってにっこりと笑った。

その群青色の瞳の奥に何やら獰猛さを感じたような…気がした。


そんなことより明日のわが娘を中心としたパーティーを無事に終わらせられるかの方が頭の大半を占めている。


考えても無駄なことだ。


やっとそう自分を自分で諭し、明日の為にもう寝床に入ることにした。







(目がチカチカする)


キクは慣れない黒光りした一張羅を着てそわそわしながらそう思った。

大広間にはいくつか円型のテーブルが置かれその上に見たことない程の豪華な食事がバイキング形式で散りばめられている。

赤い絨毯にクリーム色の磨かれた壁、彫刻、そして天井には巨大なシャンデリア。

今まで見たことのない世界にいた。

大勢の人々が大広間に入り食事やお喋りを楽しむ姿。

大広間の真ん中の大きく空いたスペースでジャズのメロディーに合わせながら踊る人々の姿。


まさに貴族である。


その中にキクはポツンと立っていた。

元々都会育ちとはいえ、親戚の家はごく普通の一般家庭だった。

パーティーに招待された人々はお互い顔見知りなのか初めましてという認識は今のところ見られなかった。

ただ端にポツンと立った黒まみれの少年に気付きぎょっとしたりひそひそと話したり…。

キクはだんだん居心地が悪くなり一時も早くこの場から立ち去りたかった。


(あれ?そういえばレンカさんが見当たらないなあ…)


田舎育ちにはやはりきつかったので外に出たのかもしれないとドアに向かって歩き始めた。

キクが歩いてくるのを見てササっと人ごみの中から道が出来た。

それを見てもっと居心地は悪くなる。


(やっぱこの容姿なんだよな…)


ため息をつきながらドアをそっと開けた。






華やかな飾り、食事に音楽。

これこそまさに貴族の証であり、彼らの世界だ。


レンカはそのままではみっともないからと幾多のメイドに肌を手拭いでこすられ、挙句に慣れないド派手な真紅のドレスを着させられそうになったが何とか脱出し普段着ている作業服を着てベランダに立っていた。


反対側の斜め下を見れば安易にパーティーの様がわかる。


レンカはじっとそれを見下ろしていた。


洗われた髪はいつもと違いストレートの茶色い光沢があり、肌の白さも現れている。

しかしいつも光に反射して金色に輝いて見える瞳はうす暗い茶色へと濁っている。


じっと見下ろす先の華やかな光沢ある服を着た貴婦人や紳士の群れ。


それらが一気に恐怖に顔色を変え逃げまどいのたれ死ぬ様をまぶたの裏でイメージした。



(ざまあみろ)



もう一度目を開けると元の楽しいパーティーに戻っていた。

笑い声が聞こえる。


「がっかりした?」


後ろから声がした途端にレンカは素早く振り返った。


その先にはレンカより身長の高いグレーのスーツを着た青年が立っていた。

その少年の面影がある顔は無邪気に微笑んでいる。

手にシャンパンのグラスを揺らしながらその群青色の瞳はレンカをしっかり捕えていた。


「あの人は死んだのに、みんな楽しそうでがっかりした?」


青年ははっきりとそういった。

レンカはその言葉に対して無表情で答えた。


「やっぱりシュタインに話したのはお前か…ユリエル」


「うん、そうだね。俺だね。でも引き受けたのは予想外だったかな」


「引き受けないと確信していたなら何故話した。見ないうちにまた一段と頭がイカれたのか」


「酷いなあ。蓮花と俺の仲でしょ。それくらいで怒るなよ」


ユリエルは困ったように笑った。

レンカは表情を変えずその顔をただ睨んでいた。


「過去に何があったのか忘れてしまうほど脳みそが腐った薄情者と親しむなんて馬鹿なことは生憎出来ない性格なんだ。すまないな」


淡々とその口は皮肉を交えて言葉を紡いだ。


「まだそんなこと言ってんだ…脳みそが腐ってるのはお前じゃないの?」


ユリエルの今まで浮かべていた美しい笑みが無表情に一瞬にして変わった。


「昔のことにいつまで縛られてるつもり」


気が付いた時にはユリエルに強く腕を掴まれていた。

レンカは右手で殴ろうとしたがそれも掴まれた。


「そんなこと忘れて、一緒に大学に行こう。蓮花のその知識さえあればきっともっと上に行ける。裏町の貧しい生活から抜け出して表町で幸せに暮らせる!すばらしいことじゃないか!」


ユリエルはそこまで言って突然レンカから手を離しうずくまった。

レンカは蹴りだした足を戻し痛みにうずくユリエルを見下ろした。


「見損なったな、ユリエル。気色悪いんだよ」


レンカはうずくまったユリエルの耳元に低い声で囁いた。


「恩を忘れて当たり前のように貴族という肥えた豚どもから金を貰って生き続けているケダモノなどにもう興味などない。二度と私の前に姿を現すな」


そして立ち上がり、こう言い放った。


「私はお前なんか大っ嫌いだ」



遠くでドアが閉まる音がした。

辺りはまた広間から聞こえる貴族たちの笑い声が響き始めた。

誰もいなくなったベランダで痛みはもう消えたはずだがユリエルはまだうずくまっている。

そしてくっくっくと低い声で肩を震わした


『私は』


『お前なんか大嫌いだ』


頭の中に響き渡るその声は昔から仏頂面ばかりしていたあの小さな子供とそっくりな凛々しさを保っていた。


「…魔女…魔女か…」


ユリエルはまたくっくっくと笑い始めた。

それをただ月は見下ろしている。








足音が廊下に響いている。

誰もいない廊下でただ一人、キクは消えた恐ろしい師匠を探していた。


(ほんとどこ行っちゃったんだ…もしかして本当に狂ってしまって何かの拍子に窓から落っこちて植木に埋もれているのかも…)


そんなばかなことあるかと自分で突っ込もうとしたが本当にそうだったとしたらと本気で律儀な少年は心配し始めた。

広大なお屋敷でしばらくうろうろしていると大きなバルコニーを見つけた。

中庭全体を見下ろせる位置にある為もしかしたら見つけられるかもとキクは足を踏み出した。

端から端までじっくりと克注意深く中庭を見渡した。

しばらく一か所から見渡していたが何の気配もないので場所を移そうと目をバルコニーの反対側に向けた。

人影が視界にふと映り込んだ。


(…女の人…?)


それはすらりとしていて、緑色の上品なドレスを着ていた。

真っ白な肌に金色の艶やかな長い髪、そして透き通った青いぱっちりとした瞳。


(どう見ても貴族の人だよな…?迷ったのかな?)


女性もキクの姿に気づきじっとこちらを見据えている。

初対面だとふつうキクの珍しいその容姿に恐怖を覚えた顔をするが彼女はじっとただ見ていた。

キクも段々その普通の人と違う異様な反応に気づいた。

見覚えのない女性がまじまじと自分を見ているのだ。


(ん?でもなんか…知っているような気がする…)


キクは不思議な感覚に捕えられた。

すると急に女性がずんずんとキクに向かって歩き始めた。

傍から見るとかっくかっくと歩いており顔も緊張しているのか強張っている。

キクはその不思議な女性に少し後退りしたが女性の方が移動する速度が速かった。

キクの目の前にはその女性がいた。

女性というよりも少女に近かった。

緑色の上品なドレスが彼女を女性に見させていたのかもしれない。

少女はこわばった表情のままキクを見上げた。


「あ…!」


キクはその顔を見て声を上げた。


(どこかで見たことあったような気がするって…もしかしてもしかして!?)


「み…ミスプロテイン…!?」


その声はバルコニーに響いた。

少女はその言葉を聞くや否や顔を思いっきりしかめた。

そのすっきりとしたラインを出している顔はもう肥えていたころの丸い顔の面影がさっぱり無くなっていた。

そのためかキクはすぐには分からなかったのだ。

キクはすぐに口を右手で塞いだ。


(失礼なこと言っちゃった!)


令嬢相手にと冷や汗が出ている。

美しくなった令嬢はじっとキクを見上げていた。


(あんなに醜かったのに…こんなにきれいになって…女ってこんなに変わるもんなのか…?)


「違う」


ふと凛とした声が響いた。

しっかりとしたしかし女性の凛々しい声。

キクは一瞬辺りを見渡そうとしたがすぐにそれが目の前の令嬢のものだとわかった。

一言も発したことがなかったその声だった。


「もう、プロテインじゃ、ない!!」


怒ったようなその口調に御免なさいとキクは反動で謝った。

しばらく沈黙が走った。

どこからかまた笑い声が聞こえた。


「私の名前は…」


またその声は響いた。

令嬢の顔は何故か頬が赤く染まっていた。

じっとキクを見ていたその目は反らされていた。

キクは不思議そうにそれを見た。


「フローラ!」


その声は中庭に響いた。





隅々まで美しい青色が空を支配している。

太陽の日も照り、広大な屋敷のエントランスホールにも光が差し込んでいた。

来客の時にだけ使われるエントランスは開け放たれ、外には黒光りのリムジンがゲストを待ち構えていた。

豪奢で大きく頑丈なドアのそばには複数の人間がいた。

そのうちの一人はこの広大な屋敷の主、シュタインだった。

その後ろから中年の白髪の執事が銀色のケースを雇い主に渡した。


「これが約束の報酬だ。受け取りたまえ」


シュタインはそういってそれを目の前に立つレンカに渡した。

レンカはそれを受け取った。

パーティーのためにたわしで半ば無理やりこすられ白くなった肌も日を浴び色もくすみ艶が表れた茶色い髪も元のぼさぼさ頭に戻っていた。

その無愛想な顔はケースをじっと見た。

きゅっと結んだ口の端が小刻みに震えていた。

傍から見ると明らかに何かを我慢している。

そんな師匠であるレンカをリムジンの近くで立って様子を見ていたキクは浅くため息をついた。


(うれしくて仕方ないんだろうな。あんな大金もらっちゃって…)


「キク!!」


ふと女性の凛々しい声がエントランスに響いた。

全員その声の方向を見た。

そこにはゆったりとした水色のシンプルなワンピースを着た令嬢、フローラが立っていた。

前と違い声をはっきり出し、動きもスムーズである。

怠惰の女王は跡形もなく少女から立ち去って行ったのだ。

フローラはワンピースの裾を揺らしながらキクに駆け寄った。


「キク、私、あのね…!」


フローラはぱくぱくと口を動かした。

頬を真っ赤に染めて何か必死である。


(前と違ってとてもきれいになったのにどうして何かと必死そうなんだろう…)


キクは小首を傾げながらも頬笑んだ。


「えっと…裏町ってここに比べたら危険な場所かもしれないけど、いつか遊びにおいでよ」


「本当!?」


フローラは透き通る青い目を爛々と輝かせた。


「約束!絶対行く!」


「しかし…」


「行きたい!いいでしょ!お父様!」


シュタインは自分の娘を裏町に行かせたくないと遮ろうとしたがお父様と呼ばれ怯んだ。

ちなみにお父様と呼ばれたのはつい最近である。


「冗談じゃない」


淡々とした声がはっきりとそういった。

その声にフローラは不機嫌な顔になる。


「来るな、迷惑だ」


レンカはケースを大事そうに抱えながら言った。

フローラは鼻を鳴らして地面を見ている。


(レンカさん、やっぱり嫌われてるなあ…)


きっとこの娘も魔女だって思ってるに違いない…とキクは苦笑いした。





二人を乗せたリムジンは段々と王の右腕だと誇っている男の広大な屋敷から遠退いていく。

キクはその光景を眺めていた。


「長かったですね」


ふとそんな言葉が口から出た。


「なんだお前、寂しいのか」


「いや…まあ、ちょっと」


「あの屋敷で暮らすか?」


「いや…それはちょっと…」


あんな慣れない環境で暮らすのは色々と弱ってしまいそうで恐い。


「あ、そういえばパーティーのときどこ行ってたんですか。探したんですよ、あのいやな雰囲気の中」


キクはほかの話題を振ってみた。

景色を眺めながらレンカの淡々とした声が返ってくるのを待っていたがなかなか返事がないので振り返った。

隣に座るその若い女の目はどこか遠くを見ていた。

魔女が遠い昔を思い出すかのように彼女も何かを思っている。

そんな気がしてキクはまた窓に視線を移した。


「別に、どこにいても私の勝手だ」


やがて答えは返ってきた。

そうですか、とキクは言った。


「ところで、お前令嬢のことどう思ってる?」


「え?」


キクは不思議そうにレンカを見た。

レンカはいつも通りの仏頂面をにやにやと下品な笑みを浮かばせていた。


「ふつうに、きれいになったと思います…」


質問の意図が読めないというようにキクは聞き返した。

レンカはキクのその様子を見てなぜか呆れたような表情に変わる。


「鈍感だな…疫病神…」


「え、どういう意味ですか。というかやめてくださいそう呼ぶの」


裏町の魔女と呼ばれる無愛想な娘と、疫病神と呼ばれる律儀な少年は裏町で今日も天然荘を営業している。

やっと怠惰の女王完結です。


だらだらと長々敷く書いてしまいました…。


薬の知識も書いてないし…。


文章もグダグダです…。


次章こそもっと改善できるように頑張りたいです。


小説をグダグダ書いている間にタイトルをちょっと変えました。

怠惰の女王が令嬢から去ったということでかえさせていただきました。


ということでご覧観ありがとうございました。

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