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天然荘の魔女  作者:
怠惰の女王
5/8

箱庭の令嬢に出会う

こんにちは。


拉致られた二人はとある人物に出会います。

新たな登場人物が二人くらい出ます。


誤字脱字などは生温かい目で見守ってくださいまし。

<怠惰の女王篇ー箱庭の令嬢ー>


ある日の昼。

とても良い天気で、日の光はある屋敷の美しい草木を照らし出していた。

大きく豪奢な屋敷はマルチェッヘという王の右腕と称される男、シュタインの持ち家だった。

そのシュタインに何かしらの理由で屋敷にいきなり拉致され豪華な昼餉を豪華な食堂で振舞われている二人の客人が居た。

一人は二十歳ほどなる東洋系の娘で本来ある若い艶はなく手入れしていない髪はぼさぼさで服もシンプルだった。

攻撃的な橙色の目はたまに差す光に反射し金色に輝いた。

その隣に座る十八になる少年もやはり東洋系だったが娘と違い優しげな顔つきだが何処か律儀な印象を与えた。

珍しく漆黒の濡れたような髪と瞳の持ち主で先ほどから使用人達にあることないことを噂されていた。

本人はいつものことだからなのか、たまたま気付いたのかわからないが少し優しげな顔をしかめていた。

二人は始め、出された食事にあんぐりと口を開けた。

前菜に若菜のオニオンソース、具材のたっぷり入った魚介類のスープ、メインに豪快な牛ステーキ、デザートにバニラアイスを二切れというメニューに玄米のおじや、薬草の余りを煮詰めたスープ、良い時には白米が食べれる彼らにとってあり得ないほど贅沢な食事だった。

隣で珍しく娘が唸った。


いつもは十分で済ませる昼食を一時間費やした挙句腹に収まりきれず残した。


「すごい豪華なでしたね…」


二人は長い廊下を目的地に向かうため老女のメイドに案内して貰っていた。

漆黒の髪と瞳をした少年、キクは苦しそうに腹を撫でながら隣を歩く娘に言った。


「あの量、あの豊富な種類、この長い廊下…これだから金持ちは…」


ぼさぼさの茶髪をポニーテールにした金色の瞳の娘、レンカは何やら下を向きブツブツとつぶやいていた。

その様子を見て裏町育ちにはかなりの刺激だったから頭がおかしくなったのかとキクは心配になった。


「着きました」


メイドの皺がれた声に二人は立ち止まり顔を上げた。


「こちらがお嬢様のお部屋でございます…」


メイドはそう言って大きな木造純白のドアを開けた。

その瞬間あっと言う間に甘い香りに包まれた。

香水、香油…そういう類の物ではない。

それは甘い、甘いバニラのような香り。

菓子類の香りだ。

二人はうっとおしいほどの甘い香りがする部屋の中に進んで行った。

キクは歩きながらも館の主、シュタインの話を思い出していた。


『私には死んだ妻との間に娘がいてね。今年で十八になる。十八は成人になる年のためパーティーを開いて客を招かねばならない』


部屋の中は娘らしく薄色のピンクを基調にしたデザインだった。

大きなカーテンには白いレースが掛かり、ところどころに花の刺繍がされていた。

十八にしては子供っぽい部屋だ。

清潔にはしてあるが匂いはしつこい甘い香りがプンプンしていた。

部屋の奥には薄いカーテンが掛かり奥が見えない。

その前にいた若いメイドはキクを見るなり恐ろしそうな顔をしたがレンカを見て客人だとわかったらしくカーテンを開けた。

キクはむっすりとしながらも好奇心に煽られカーテンの向こうを見据えた。


『しかし其処である重大な問題があるのだよ、君たち。何故なら私の娘は蝶よ花よと育てた結果…私からは言いたくない。ただ…このドレスに入るくらいにしてくれないか?』


シュタイン伯爵はそう言って滑らかな翠色のシンプルかつ上品なドレスをメイドに出させた。

見た感じではごく普通よりちょっと痩せた女性が着そうなドレスだった。

キクはその頼みに意外そうな顔をしたが今になってやっとその意味がわかった。

若いメイドが薄色のカーテンを開けた途端に一段とむせかえるほどの菓子の甘い香りが鼻を刺激して来た。

床にはキャンディ、チョコレートなどが散らばりカラフルに彩られていた。

そしてバリボリと貪る音が響く。

それを見るなり二人はあんぐりとまた口を開けた。

何故なら其処に居たのは豪奢な椅子に座った少女だったからだ。

まるっきりずんぐり太っておりお嬢様というような気品もなく、金色の髪は艶を無くして肉がついてるせいか小さく薄い青い瞳だった。

そしてその顔には脂がたぎっているのか小さなブツブツが目立っていた。

少女は二人を特に気にしたそぶりを見せずただただ隣の小さなテーブルに乗っかっているクッキーやマカロンなどの焼き菓子を夢中に食べていた。

バリボリと部屋に不気味な音が響きキクはぞっとした。


「…脂…ニキビか…プロテインの塊…」


キクはその隣でブツブツと呟くレンカの顔を恐る恐る覗いた。

その金色の瞳はギラギラと輝いて見えた。


(何処かで見たような目だな…)


キクはしばらくその目を覗いていたがやがてあっと声に出した。


(胡蝶さんの目だ!)


裏町の胡蝶蘭と言う娼館のオーナーをしている胡蝶という女性が良く男に対し獲物を狩るような目をしていたことをキクは思い出した。

いつの間にかレンカはブツブツ呟くのをやめ、つかつかとその少女に向かって歩き始めていた。


「れ…レンカさん⁉」


キクはすかさずレンカを呼んがレンカは無視し少女のその背後に何故か回った。

若いメイド達もキクも不思議そうにレンカを見た。

レンカは何を思ったのかはじに居た掃除をしていただろうメイドの箒と近くに放置してあった豪奢な箱を取った。

箱を少女の座る豪奢な椅子の後ろに置いた。

そして…箒のちょうど真ん中あたりを置いた箱にあてた。

あっと思った時はもう遅かった。

ずんぐり太った少女は椅子ごとひっくり返っていた。


「お嬢様‼‼」


周りのメイド達は一瞬の硬直に解かれた途端に悲鳴交じりに叫んだ。


「な…何してるんですか⁉」


キクも慌てながら叫んだ。


「何って。テコの原理だ。知らないのか?」

「そういうことではなくて!」

「つまりお嬢様なんだから大事に扱えってか?愚問。この脂肪の塊の親から頼まれた時点でこいつの箱入り人生は終わってんだ。なんでもしていいだなんて言われてるんだ。文句は無いよな…?」


レンカに睨まれ若いメイド達は震え上がった。

さすが魔女と言う異名を持つ娘は手加減ないとキクも震え上がった。


「さあ、今日から楽しい特訓を致しましょう。ミス・プロテイン」


レンカはそう言って普段は見せない満面の笑みをずんぐり太った少女に向けた。

少女はただぽかーんとお口を開けてレンカを見ていた。

はたから見ると獲物を見つけた狼とずんぐり肥えた豚のようだ。


(ああ…可哀想に…)


キクは哀れな目を少女に向けた。


「お前も明日から五時起きだぞ」


レンカはキクに向かってそう言った。


「え⁉」

「こんなにずんぐりと肥っちまって…ハムにでもなるつもりかお前は」


レンカは絶望的な顔をしたキクを尻目に少女をジロジロと見た。

少女は椅子から落ちた時の驚きから解放されたのか何もなかったようにお菓子の山に手を伸ばしていた。

レンカはその手をすかさず踏んだ。


「今日からお菓子は抜きですよ、ミス・プロテイン」


メイド達は驚きのあまり目を見開いていた。

少女も目を見開きレンカを見ていた。

まるで今始めて二人の存在に気づいたような顔をしていた。

レンカはその顔を見て珍しくにっこりと微笑んだ。


「聞こえませんでしたか?お菓子は今日から抜きですよ。抜き。豚にわかるかしら?」


キクはレンカの言葉にメイド達は失神しかけているのを見て大きくため息をついた。

こうなってしまってはもう誰も彼女を止められないのだ。


(ああ…帰りたい)


キクは裏町の天然荘を思い出すのだった。


ーーーーーーーーーーーー


空は限りなく青い。

強い南風に吹かれながら俺は空を見上げていた。


(さて、これからどうしようか)


飛行機雲を目でなぞってはそんなことを考えていた。

大学はつまらないし、親類などいないし、知り合いはみんな忙しいだろう。

ふっと裏町のことを思い出した。

彼女は元気にしているだろうか?

毎日暇で暇で仕方なかった。

刺激が欲しい。

刺激が足りない。

ある日、知り合いの男が俺を訪ねて来た。

その男はかなりの金持ちで俺の大学に通う資金を「投資」として払っている。

政治家は全くもって変な奴らだよな。

いきなりある日やって来て君の頭脳と将来にかけたいと言ってきたんだ。

その時から俺は自分の頭が他者よりずば抜けているのがわかった。

それにしても政治家は変な奴らだけど見てて飽きないな。

会うたび勉学に励んでいるかねとか何か不自由なことがあれば言いたまえとか男は聞いてきた。

しかし目が泳いでいた。

心理学は学校で習いはじめたばかりだがだいたい人間の行動パターンの基礎が分かってきた。


「何かお悩みでも?よかったら相談に乗りますよ」


俺は男に向かってそう言った。

男は少し驚いた後何やら考えはじめた。

一体どんな悩みなのだろうと俺の心はうきうきしていた。


「…何処か地位も名誉もなく…誰も知らぬような医学に専門知識を持つ者は知らないか?」


男の言葉に驚いた。

様々な疑問が頭の中に湧いたが男の目を見ると聞く気がなくなった。

俺も人間だから気分に左右されるものだ。

幸い俺は一人そのような存在を知っていた。

その人を思い出す度に笑みが零れるほど思い焦がれていた。

もちろん、今も。

あまり他人に教えたくないが学費と生活費のこともあるので仕方なく口を開いた。


「裏町の『天然荘』などは如何でしょう」


今回は薬草出ませんでした


すみませぬm(_ _)m


次回からはミス・プロテインお嬢様のダイエット奮闘記です。

レンカの魔女っぷりが発揮されます。

ついでにお嬢様の本名はこれから出る予定です。


最後の語り手もそのうち正体を現します。


どうぞお楽しみに。


次回の更新はかなり遅くなりそうです。

今夜からイギリスに向かうのでしばらく更新は出来ません。

イギリスでは色々学んでこようかと思います。


ご覧観ありがとうございました!

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