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天然荘の魔女  作者:
裏町の天然荘篇
3/8

裏町の胡蝶蘭

第三話まで勢い良く更新です。


今回は『天然荘』お得意先の娼館についてユニークな仲間を一人紹介します。


誤字脱字などご容赦くださいませ。

週末の昼、首都は休日を楽しむ人々が溢れていた。

広場ではチェロ弾きが音を奏で人を集めていたり、恋人と噴水をバックに語ったり、家族でランチを楽しんだり…。


人々は思い思いに休日を楽しんでいた。


そんな中、裏町の住民達は街に働きに出ていた。

休日こそ仕事宛が見つかりやすいのである。

多くの店は休日こそ稼ぎ時だと休業はしていないものの人員不足に困ることもしばしばあった。

休日である、訪れるお客の人数が倍になり、店員は少なくなる。

しかし客の量から休むと損だと休む店はとにかく少ない。


一方裏町にある『天然荘』という薬屋は週末は定休日だった。


やはり「若き魔女」も休日を楽しむ…のではなく仕事の都合だった。

流石金にがめつい女主人である。


「定休日」という看板を立て掛けた『天然荘』の女主人、レンカとその後ろから大きな箱型の荷物を抱えた見習いのキクは裏町の西側に向かおうとしていた。

裏町の西側には大きな闇市や商店が店を構えている。

中では花街とよばれ娼婦館が連なる場所もあった。

彼らの目的地は其処である。


「あ、こんにちは!」

歩いてる途中、横から声をかけられキクは振り向いた。

サラッとした金色に輝く髪と豊かな緑色の瞳…近所に住み、家族ぐるみで『天然荘』の常連であるエリスだった。

キクは、こんにちはと挨拶を返す。


(ああ、今日も可愛いなあ…。)


キクは嬉しそうに微笑んだ。


「お二人共、何処に行くのー?」

エリスに無邪気にそう言われ、キクは顔を引きつらせる。


(こんな無垢純粋な少女に言えない‼それに変な誤解をされるんじゃ…。)


「花街です」

レンカはズバッとキクの心情を見事に無視した。

「ち…違うんです‼誤解です‼」

キクは慌てて何故か弁解を始めた。

そんなキクを不思議そうにエリスは見ている。


「変なキクー」


一生懸命弁解をした後のエリスの一言にキクは肩を落とした。

ついでにレンカはニヤニヤとその現場を楽しんでいた。


「花街ってここから西側だよね、お仕事?」

「そうだ。お得意先だからな」

「そっかあ!頑張ってね‼」


そう言ってエリスは手を振って帰って行った。

レンカはいつまでもうなだれている弟子を半ば無理やり引きずりながら西に向かった。


街は西に行くほど店や人が増えていった。

裏町の中心は西街であり、犯罪が多い要注意地区である。

そんな場所に徒歩で大丈夫なのかと思う者もいるだろうが、知らないおじさんやお姉さんに付いていかなければ自分の身を守れた。

この場所で大抵犯罪に巻き込まれる者は下心のある人だろう。


街は賑やかになり、闇市では人口密度が高くなる。

野菜や魚が表街より安く売られていたり、占い屋があったり、何やら怪しい店があったりとレパートリー豊富な闇市にキクは目を回す。

レンカはキクをまだ引きずりながらも前にどんどん進む。


「おお‼キクじゃないか‼」

とっさに声をかけられ、その方向に二人は振り返った。

そこには様々な薬品や薬草が小さなテントに並べられており、その奥に『薬売師』であるアレンが胡座をかいて座っていた。


「あ、こんにちは!」


挨拶しながらキクはアレンがイランイランの精油を闇市に訪れる金持ち達に売ると話していたことを思い出した。

その横でフンと鼻であしらっているレンカがほとんどのその精油を安い賃金で買い取ってしまったのだが…。


「お店ってここだったんですね」

「おう、火曜水曜土曜日まとめて週三回やってるぜ。ここ一か月ずっと休んでたからぼちぼち来てた奴らが驚いてやがったよ」


アレンは楽しそうにキクに言った。

キクはアレンの楽しそうな様子にこの人にとってこの商売は天職なのかもしれないと思った。


「繁盛してるのか」


レンカの声にアレンは楽しそうな顔から一変、嫌悪感丸出しっした顔をした。

それはそうだ、貴族相手に高く売れただろう物をレンカが安い金でかっぱらって行ったのをアレンはまだ根に持っていた。


「まあな」

「ところでイランイランはまだあるのか?」

「お前には売らねえよ!」


お前にはそこなへんのやっすい薬草がお似合いだ!と言いながら旅行鞄を奪われまいとアレンは構えた。

そのようすだとまだ売れておらずおまけにそれは旅行鞄の中に入っているらしい。


(わかりやすい人だ…)


なぜかキクは和んだ。


「十五ミリリットルも手に入ったからな。もういらない。十分だ」


レンカはアレンの傷口に塩…いや、こしょうを塗る。


「魔女!人間もどき!!」


アレンは罵声を上げた。

レンカはさほど気にする様子はなくキクをこのバカに関わってないで行くぞと顎であしらった。


「またな」

「天然荘なんて潰れちまえ!」


アレンの虚しい声は街中に消えて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あのう」


キクは荷物を抱えながらずんずん進むレンカを追いかけた。


「なんだ」


レンカは答えた。


「昔からアレンさんとはあんな感じなんですか?」


キクは恐る恐る尋ねた。

レンカは無言で進んでいく。


(あれ、まさか墓石掘っちゃった?)


キクは心配になった。

ふとレンカは立ち止まった。


「私は過去に興味はない。私が見てるのは今だ。だから昔のことを話すサービスなんて無い」


そう言い切ってレンカはまたずんずんと進んだ。

キクはその回答に首をかしげながらもその後ろ姿に付いて行った。


ふとレンカの歩みは止まり、後ろを付いていたキクも立ち止まった。


二人が立ち止まった目の前には大きな洋風の館が建っていた。

クリーム色の壁に黒い屋根には飾りなのか大きな煙突があった。

それらは古風な雰囲気を醸し出していた。

エントランスは木製の立派な彫りを身につけた物でそこから豪奢な踊り場に繋がっていた。


ここはこの首都の中ではおそらく一番大きな娼館『胡蝶蘭』別名『オーシスホール』と呼ばれている館だった。

貴族御用達と知られるこの娼館は豪奢な造りからがっぽがっぽと稼いでいるようだ。


二人は踊り場に立った。

キクはいつ来ても慣れないのかキョロキョロ辺りを見回していた。


「あら、いらっしゃい」


そう言ってカウンターから艶やかな金髪を背中に長しクリーム色の肌に茶色い目をした背の高い女性が出てきた。

下着が見えそうな白い薄い生地のドレスを身につけているのを見てキクは目を反らした。


「なかなか来ないから若い魔女さんに嫌われたかと思ったわ」


艶っぽい声で女性はそう言った。


「どこぞの馬鹿のせいで店が経営困難になったからな、なかなか来れなかったんだ」


レンカは淡々といつもの調子で答えた。


「まあ、それは大変ねえ。キク君も来てくれたのね」


女性はキクにそう言って微笑んだがその目は獲物を狩る目をしていた。

キクは反射的にレンカの後ろに隠れた。


「胡蝶、その目は止めろ。まだ昼だぞ」

「あらまあ、私ったらいつもの癖で…」


レンカの声に女性、胡蝶はその純粋な気持ちをいつまでも大事にしてね?とキクに艶っぽく語り掛けた。

因みに胡蝶は『胡蝶蘭』のオーナーである。

キクは苦笑いを返すしかなかった。


「ところで今日は何をお持ちになって?」


胡蝶は本題を引っ張ってきた。

その声にレンカはキクの荷物を取り上げ床に置き中身を漁った。

そして一つ一つ、つまみ上げては床に並べた。

キクはそれを見るたびに商売してるんだなあと実感が湧いた。


(個性的な人が周りにいてお客よりもちょっと邪魔?いやいやそんな…)


キクは考えなくても良いことを律儀に考え始めた。


「これくらいだ」


レンカは最後にイランイランの五ミリリットル瓶を取り出した。


「これは何?」


胡蝶は不思議そうに薄いオレンジ色の瓶を覗き込んだ。


「イランイラン、南方の島や街から来た価値が高い香薬だ。たまたま買い取った」


(たまたま…)


キクはアレンの泣き顔を思い出した。


「主に女性特有の悩みに効くが催淫の作用もある」


レンカはそう言うと瓶の蓋のコルクを開けて胡蝶に匂いを嗅ぐように促した。

胡蝶は促されるまますんすんと鼻を動かした。


「まあ、なんていい香り!香水にいいわね」

「確かに甘く濃厚な香りだが入手量はこれしか渡せない。スプレー容器にでも入れて部屋にかけるといい。女の喧嘩ほど恐ろしいものはないからな」


レンカの話に胡蝶はそうよねえと頷いた。


「いくらで譲って頂けるの?」

「五ミリリットルは五十ペンシーだ」


この会話をもしアレンが聞いていたら…とキクは金にがめついレンカにため息をついた。


「まあ、お高いのねえ」


胡蝶はそう言いながら何処からか二百ペンシーもなんのためらいも無く出した。

貴族相手の商売をしていると金の価値観も違ってくるのだろうか。

イランイラン以外の薬草や香油はいつも『胡蝶蘭』で買われている物で全てで百五十ペンシーになる。

『天然荘』の主な収入源が『胡蝶蘭』なのは納得がいく。

そしてそのほとんどの薬草は妊娠を避けるための避妊剤になるハーブティー、香油は娼婦たちが体に身につけるものだ。

それらは首都で買うには偽物だったり恐ろしく高かったり、なんせ貴族がお忍びで来る店の為その存在は公にできない。

その為に裏町の東に位置する地位も名声もない『天然荘』にそれらの調達を頼んでいた。

レンカは二百ペンシーを受け取り、大事そうに荷物に入れた。

二百ペンシーもの大金に示す田舎者らしい行動である。


「それにしても…」


胡蝶は荷物を持って立ち上がったレンカにすりすりと身を寄せた。


「ほんとーにもったいないわあ」

「何がだ」


レンカはうんざりした顔で言った。


「確かに御胸はないけれど…磨けばそれなりに人気が出るのにねえ」


そう言って胡蝶はレンカの手をがっしりと掴んだ。


(また始まった…)


キクはレンカの荷物を抱えてながらも逃げたくなった。


「私は娼婦にはならないと何度言ったらわかるんだ」

「ええー、でも蓮蓮リェンリェン磨いたらいけるわよお。もったいないわあ」


レンカはうんざりしていた。

それも毎回来るたびに胡蝶から勧誘されていたからだ。

もう二度と薬を売ってやらないと言ったことがあったが、それでなんとか生きていけたらいいわよおと返されレンカもお手上げ状態だった。

金にがめついとこを喰われるとは胡蝶もやり手だ。


「また来るから離せ」

「そんなこと言って逃げちゃうんじゃないのお」

「その話は断ることが出来ないように仕込まれてるからな。逃げるしかないだろ」

「じゃあ折れちゃいなさいよお」

「断る」


毎回同じ会話を交わしているのを見てキクは胡蝶さんもよく飽きないなあと思った。

どんなにレンカを見ても美しく飾られた貴婦人を想像出来ないので胡蝶に聞いてみたところあの子はやれるわと獲物を狩るような目で言われたことはキクの中では少々トラウマだった。


(この人なんだか苦手だなあ)


キクはそう考えながらも打ち合わせ通りレンカに助け舟を出すことにした。


「ああ、レンカさん!早くしないと大事なお客さんが来てしまいますよ!」


キクはそう言って大げさにあわてて見せた。

胡蝶はそれを聞いて訝しげにキクを見た。


(ああ、見逃してください…!)


キクは胡蝶から視線を逸らした。


「それはいけないな。胡蝶、私を勧誘したくて山々なのはわかった。しかしこっちにも店があるんだ。まさか私の店をつぶすなんてことしたくないだろう。同じ営業者としてわかってくれるよな?な?」


レンカはキクの助け舟に必死にしがみついた。

胡蝶は案の定その手で来たかと鼻で笑いながらもレンカの腕をやっと離した。


「次はきっと逃がさないわ…キク君いつでも遊びにいらしてね」


レンカに向けた獲物を狩る目がキクを優しく見る目に変わった。


(女って恐ろしい)


ここに来るたびにキクはそう思った。


「またいらしてねえ!」


胡蝶に見送られながら二人はそそくさと館を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「まったくあのアバズレ、よく飽きねえなあ」

レンカはそう言って店の椅子に座りこんだ。

「そうですね…」

キクはそう答えるしかなかった。


『胡蝶蘭』の女主人に毎回口説かれる『若き魔女』とその沙汰に毎回付き合わなければならない律儀な『疫病神』


そんな二人が経営する『天然荘』は今日も営業中である。


たまに貴族が娯楽として娼館を訪れることがこの世界では多いようです。いわゆる性欲というものですね。

そのついでに近くの闇市を吟味するのが楽しみだという変わった貴族もいらっしゃるようで…。


そしてレンカの名前を漢字に書くと蓮花です。

レンカの両親の故郷は中国なので読み方が「リェンファ」となります。

キクは日本語の読み方でレンカと呼んでおり、それにちなんでエリスもレンさんと呼んでいます。

アレンやそれ以外の人たちは「魔女」と呼んでいるようです。

胡蝶だけが中国読みのニックネームで呼んでいます。

どうやらレンカがお気に入りのようですがお気に入りの彼女を娼婦に…と企んでいるのも彼女の醍醐味だそうで…。


今回はあまり薬草についての知識は書いていません。

今後はちゃんと書くように努力したいです。


ご覧観ありがとうございました。

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