42.見届けよ、大罪たち。
思念の行き交う波の中で、目を覚ました。その世界はひそひそ、ひそひそと囁き合う人々の噂話の声の様に似ている。最初はわずわらしかったものの、今はそれもとうに慣れた。その囁きに耳を澄ませば、あるざわめきが輪郭を現す。
『……iraが死んだぞ』
『この世で己の運命も果たせぬまま、死んでいったらしい』
『愚かね。とても愚か』
そう言って送れば、ある声は嘲る様に笑った。
『否? ある意味半分は達成していたのではないかい? iraは憤怒で殺し続けた。なら、本命も直に殺すよ』
その物言いに含む所があるのを読み取って、その疑問をぶつける。
『彼はもう死んだわ?』
その途端、他方からクスクス、クスクスと小さく笑う声が響き渡ったので思わず眉根を寄せ―現実の動作を思わず意識の中でもそう形容してしまうのだ―ギロリと周りを見渡した。
『何が可笑しい?』
すると、その内の一つの声が笑いを堪えながら言葉を送ってきた。
『だって、ねえ。iraは魔術師だぜ』
『如何にも。憤怒を纏った魔術師だ』
『ならば、その最期もきっと、憤怒で飾る。だろう?』
そう言われて、はたと我に返って考える。そう言う事か。
『それじゃあ、華麗に飾って貰おうじゃない。大罪に認められたiraの憤怒、最期まで見届けてやりましょうよ』
そう言って笑えば、それぞれが是非もない、と言って笑い合っていた。
『無論。我ら七つの大罪は、死する時までその大罪を具現化する』
『iraの憤怒、見せて貰おうではないか。嗚呼、楽しみだなぁ』
『神に対して怒ったその憤怒、焼きつける事ぞ我らの役目よ。各々方、ゆめゆめ逃す事なりませぬぞ』
『御意に』
意識が徐々に消え失せていく、その中に一つだけ残る静寂な意識を捉えて再び口を開いた。
『貴方はあんまりノらなかったわね。何で』
その意識がふ、と笑い、静かな意識のまま言葉を送ってくる。
『否? iraの憎悪は見たいけどもね。まあそんなのどうでもいいんだ。僕にはやるべき事があるから』
『やるべき事?』
『そう。君もだろ。目星は付いてる。来るかい? …来るだろう?』
『…そう、ね』
『もう種明かしの時間だ。そろそろ夢が覚める時間だ。共に目覚めさせに行こうじゃないか、この悪夢へ、更なる悪夢へ…』
悪戯をしかける子供の様な、そんな意識だ。そんな無邪気さにある意味笑みがこぼれた。