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3.火あぶり

*グロイ表現があります。苦手な人は避けて下さい。

そこにはまだ肉の焦げる匂いがくすぶっていた。それだけではない、肉と、樹木、枯葉の焼け焦げた匂い。すん、と鼻を鳴らし、ルナは現場となった廃工場の庭を眺めた。あまり匂いをかがない方がいいかもしれない。

何もかもがボロボロになった工場は半世紀前の建物らしかった。しかし立っているのも不思議なくらいの有様で、既に死せる者の住処となっていてもおかしくはない。その工場の前、茶色の土が露出した土地、そこあったのは、樹木をクロスさせて縄で縛りつけ、そこに人間―人間だったモノの塊に近いものが残っている。傍には白い防菌マスクをつけたカインと、さらに1距離を置いて、ぐったりと膝を折ってうなだれているヴィオがいる。まあ、置いておけばいいか。本来ならただの護衛だけを請け負ったヴィオだ。カインは前回に引き続き、刑期を減らす為に捜査の手伝いをする事になった。慣れもあるだろうが、漂う匂いには多少顔をしかめているだけだった。マスク越しにしかめ面のまま口を動かす。


「……男、か」

「……分かるの?」


見上げた人間だったモノ―骨すら残っているのが不思議なほどだ―を見てルナは目を見張る。あいかわらず匂いは鼻を捻じ曲げそうなので、たまらずに持っていた抗菌マスクをかける。やはり最初からマスクをしておくべきだった。こんな匂いは是非とも死んでから嗅ぎたいもの―否、死んでも嗅ぎたくないそうして鼻を防御し、近くに寄るとボロボロになった人間だった処に向かって手をかざした。結構釣り上げられた所が高いので、これ以上は触れられないのが痛いが…



『……ああああ何だコレナンダコレ何で痛い痛いいたイ高い火が! 熱い!熱いああああああぁぁぁ俺は何もしていないのになのに何であああアツイアツイアツイぃいぃぃぃいぃ!……じじじじっ…画面が切り替わる…そこから…ない…記憶がない…ジジッ!…切り替わる…あああああああああああああなんでナンデ何でこんな目にいいいいアツイアツイ熱いぃぃぃぃ……煙の中から…長いローブ…フード…かぶって…人…たす…て』




                   『彼の者、痛みを知れ』




ハ……ッ…



じっとりと汗が粘ついて身体を覆っていた。それなのに手足が凄く冷たい。ハ、ハ、ハ…息を整え、離れてから地面に膝をつく。かなり酷い。前の捜査官が発狂してしまうのも分かる程に、それは脳内で鮮明にリフレインされた。カインがいつの間にか傍で樹木に手を触れ目を閉じている。こちらの気配に気がついたのか、ややあって閉じていた瞳が開かれると、大丈夫か、と方膝を折って手を差し伸べてくれた。


「何とか。生きたまま焼かれる、なんて、何も考えられないわよね」

「まあ、テクノロジーが発達した今の時代に火あぶりなんて誰もやらないな…それにしても」


くん、と顔を上げて片目で現場から距離を取っているヴィオを見やって酷く呆れたため息をつく。


「あいつは一体何をやっているんだ。役立たずめ」

「仕方がないわ…彼は慣れてないもの。ヴィオ」


リフレインされる映像を何とか振り払って、うつむいているヴィオの方へ近づく。自分が来ると、彼はゆっくりとこちらを向き、ルナ、と呟いた。マスク越しの顔がいつも以上に青白い。


「大丈夫?」


ヴィオはああ、と答えると、現場の方に視線を向け、そしてやっぱり…と声を漏らした。


「…何か知っているの?」


ヴィオはくるりとこちらを向くと、はあ、とつかれたようなため息をこぼし、その唇を開く。


「…魔女の処刑方法だよ。1600年代を中心に約300年続いた狂気の魔女狩り。最終的に魔女、魔男―魔術師とでも言えばいいのかなーと認定された者は皆主にこの方法で処刑された」


そういえば、彼は片親が7番目に生まれた魔女の家系だと言っていたっけ。それでこの現場を見て真っ先に具合が悪くなってしまったのか。


「魔術師ではない。魔女というのは女、男、両方に言える単語だ。ただ魔女と言う名の通り―女がほとんどを占めていた、というだけだ」

「カイン」


無理向けばあいかわらずしかめ面が治らないカインが近づいて隣でけほ、と軽くむせた。まるで人間みたい、と思ったけれど言わないでおく事にしよう。今はそれどころではない。現場近くに配置している現場捜査官を捕まえ、指示を出す。


「現場の写真はあらかた取ったわね?じゃあそれデータ化して私のオフィスに送って。ああ、肉の塊…いや遺体は安置所に送っておくのよ?後身元確認を早急に。ここでは身元もクソもない、全部焼けちゃってるから。この数日…2週間でいいわ、近辺の消息不明の人物を洗って。そう多い訳ないからすぐに出るわ」

「どんな人なの?」


ヴィオが虚ろな目で聞いてくる。


「読んだ中で彼は…ほぼ絶叫。そりゃあそうよ、生きたまま火に焼かれて言葉が紡げる方が奇跡よ。後は…人影がいた。人影が言った。『彼の者、痛みを知れ』と」

「犯人…か」


カインが腕を組み、唸る様に声をくぐもらせる。


「身元が分かれば後はこちらで洗いざらい全部洗ってみるわ。それこそケツの穴までかっぽじってやる。とりあえずオフィスへ行きましょう」

「はは、あいかわらず手厳しいな、我らが姫」




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