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28.la seule reine(ラ・スール・レーヌ)


モガリのカタコンベを後にしたルナは、自家用車に乗ってオフィスに向かう車内の中、運転を自動にし、車に内蔵された回線に携帯を繋ぎ、彼女の騎士に電話をかけた。外見に反して彼はいつもきっちり5コールで電話に出た。


「私の騎士さん、また御出勤願いたいのだけれど」


電話の向こうの彼は本日もドゥらしい。擦れた笑い声が特徴的なドゥの声が向こうに響き渡って鼓膜が震えた。


「オーケー、俺の女王様。次はどんな事をお望みだい? まあ、俺の胸の中はいつでも空いてるぜぇ。ルナを抱くのを楽しみにして疼いてる」

「嗚呼全くトロアの電話嫌いも困ったものね。彼の方が話が進むのに。話をバキッと元に戻して良いかしらモン・シュヴァリエ」


呆れかえってため息をつくと、向こうの方で一旦沈黙が続き、次に晴天の空の様に爽やかな声が聞こえた。


「嗚呼、ごめんよ、reine(レーヌ)。君と分かっていたら出ていたのに。ねえ、何をお望みだい」


女性をシロップの様にとろりと溶かすような甘い声で、トロアが電話口に囁いた。再びため息をつくと、ルナはゆっくりと口を開いた。


「…ねえ、トロア、魔術にかかった遺体にお目にかかった事がある?」

「うん?ない事もないけれど…聞きたいのはそれ?」


意外な質問にトロアが思わず不思議そうな声をあげる。それを聞いて、イヤイヤとかぶりを振って答えた。


「嗚呼いいわ、肝心なのはそれじゃないの。貴方達、人買いの…ソッチの世界の情報は仕入れられるんでしょう?」

「ああ何だ。勿論だよ。ナニを調べるの?」

「ここ数カ月で特に赤子の流通が無かったのかどうか。へんな動きがなかったか、だけでいいわ。念の為の情報を知りたいだけだから」

「ふうん…まあいいけど。まあ、何を抜きにしても、君としちゃあ潰したい一心だろうねしかし。人身売買なんて古臭い事をさ」


電話口のトロアの声が急に嘲りを含んで響く。


「…貴方、本当に意地悪ね。私が出来ないのを知っていて」


言いながら、自分の眉間に皺が寄っているのを隠しきれないでいるのを己がとうに自覚していた。ふふふ、と面白そうな笑い声が耳元で反響する。


「…そうだね、でも僕愛している人には意地悪したくなるんだ。Reine de notre(レーヌ・ド・ノートル)。僕たちの女王」


でも、ねと笑いながら、トロアが草が揺れる様な声で囁いた。


『……僕としては、la seule reine(ラ・スール・レーヌ)になってくれる事を渇望している』


「…そう。薄い望みだけれどね」


甘く蕩ける蜜の様に囁く彼の声を振り払い、そっけなく返すのが精いっぱいだ。果たして今ちゃんと装えたのだろうか。まあ、ダメだろう。彼らには動揺なぞ目に見えている。諦めてそのまま電話機に耳をそばだてる。


「待ってるよ。忠犬は待てが得意だからね」

「そう? 幸い私はその忠犬を待てさせて餓死させるのが得意よ」

「酷いなあ」

「頼んだわよ」


そのまま無慈悲にブツリと荒々しく切り、運転を手動に切り替えて自分でハンドルを手に取る。気分を変えるには自分で運転した方が気が晴れるのだ。多分そんなに人買いの方の情報には時間がかからないだろう。前に頼んだもうこの世にはない情報ではなく、今度のは今ある情報なのだ、彼らにとってはそう難しい事ではない。彼らの情報力の高さはそこにある。


「そうね…一日あれば十分。彼らはやるでしょう」


後は、自分のする事を確認するのみだ。ルナはアクセルを力いっぱい踏んで、オフィスへの道をかっ飛ばす事にした。

 

短いですが、次から話がゴキッと進展するです。

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