表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/48

24.愛の無い愛のキスを分け与える

*少しエッチい表現有。ゆるいですが苦手な方ご注意です。

「…っ…ぅ…」


ぴちゃり、ぴちゃりと交わす度艶めかしい水音が嫌が応でも起こる。トロアはいつも目を開けて見てくるから恥ずかしいったらない。コイツはある意味ドゥよりも性質が悪い。

それでも、これも一種の愛なのかもしれないと思ってしまう。狂気という愛。愛のない愛のキスでも身体がぞくぞくと反応してしまうのは情けない人間の性だ。トロアはその後2.3度角度を変えてルナの唇を十分に濡らすと、ゆっくりと時間をかけて離していった。恍惚に満ちたその表情は先程より赤みがまして健康的になっている。


「…どんな人間よりも、君の精気を貰う事が何より嬉しいよ。でも今日は考え事が多かったね。男の事?」

「…そうね」


否定しても仕方ないのでその通り言ってやると、彼はそう、と事もなげに言い放っただけだった。


「君の周りの男たちは残念だねえ。僕らの様にこうして君の犬になれば苦しまずにすむものを。犬はただ命令に従い、そして餌を貰うだけ。…高望みが多いんじゃないか?」

「そうみたい」


ふう、と諦めたように息をつくと、ルナは自嘲気味にトロアに笑いかけた。そんなルナをトロアは事もなげに見返しただけだった。


「…まあいいよ。僕らは君の犬。君は僕らの女王様でプリンセスだ。こうして命の源である精気を貰えるだけで少なくとも僕らは幸せの絶頂だよ。…ああゴメンルナ、女王様。ドゥが煩くなってきた。…仕方ない、お前は引っ込んでろトロア!」


急に彼の瞳が焦げ茶色に戻りドゥが顔を出したので驚いて動揺してしまった。そのままギリ、と彼―ドゥを睨みつける。


「急に入れ替わるのは止めてっていってるでしょう、ドゥ」


ルナの怒号も全く意にも介さず、ドゥは手のひらを顔の前に突き出して苦笑した。


「まあまあ、許せよ女王様。なあそれよりも俺にもくれよ、トロアばっかズルイだろぉ?」

「トロアにやったからいいじゃない」

「気分の問題だよ。いいだろ? 俺だって今回働いたんだぜ? 哀れな雄犬に女王様ぁ、どうか餌を恵んでくれよ」


まとわりつく彼の呼気が妙に色っぽい。全くこの二人はどちらかにやればいいって言っているのにいつもこうだ。煩いドゥの唇に噛みつくように唇を重ねる。5秒程で離し、これでいいでしょ、とフン、と息を荒げ見下ろしたら、ドゥはハァ? と不満そうに見上げてきた。


「これっぽちかよ! トロアにはやったくせに!」

「貴様ごときには絞りカスがお似合いなのだ、とルナは言っているんだ」


突如として湧きだした硬質な声音に二人は思わず同時にそちらを振り向いた。途端ドゥがぐ、と詰まった様な声を上げる。ルナが視線をドゥの方に向ければ、首元に刃物の様に研ぎ澄まされた獣の爪を押しあてられたドゥが冷や汗を浮かべ立ちつくしていた。ちっ、と鋭く舌打ちしたドゥは、唸り声を上げ続けている手の主―セイルを殺意を込めた眼差しで見やった。


「人狼の番犬が余計なチャチャ入れんな! 俺らにとって精気は源なのを知っているだろうが!」


噛みつかんばかりに吠え上げるドゥを横目に、セイルはあくまで冷静に彼に告げるだけだ。下賤の者を見ている、といわんばかりの眼差しが彼を見ていた。


「だがその精気は一人が取り入れれば良い事も承知している。魂は二人でも、容量は折半で良い事をな。精気は無くなると人を激しく疲労させるのだ。ルナをこれ以上疲労させるというのなら、王に代わって成敗せざるを得ない」


カチ…鋭い爪が擦れ合い生々しい音を立てる。張り詰める様な緊張した空気の後、しばらくしてドゥがチッ! と今度は鋭く舌打ちをして傍から離れた。


「分かったよ! ルナ! 今度は俺の時にやれよ! いつもトロアばっかには横取りさせねえ!」

「…分かったわ、フォリ・ア・ドゥ。でももう少し紳士的になって。なら…考える」


全く仕方のない男だ。そうセイルが呟いた気がした。そして次にこちらが彼を見つめると、彼は小さく口を動かしてルナ、とこちらを静かに呼んだ。


「あまり彼を煽らない方がいい。あのアンノウンがいかに貴女の犬であっても、所詮は男、狼なのだから」

「…騒ぎを起こしてしまってごめんなさいセイル」

「詫びる事じゃない。言ったでしょう。貴女をいつも見守ると。その言葉は変わらない」

「…どうして、護ってくれるの」


今までずっと思っていた事だった。出会いは最悪、そしてそのせいでセイルは小指の皮をはがれ、その上から銀の指輪を付けさせられた。それは指を失くしたと同じ事だ。なのに、何故。セイルはふ、と口元に微笑を浮かべながら言った。


「……王が貴女を寵愛しているからですよ。決まっているでしょう。貴女に害なす者はすなわち王を傷つける事同様。俺は王の臣下ですから。後は…俺個人の感情にすぎない」

「個人的な感情…?」


きょとん、として同じ言葉で聞き返すと、セイルはしまったと言う顔をして左手を向けて顔をそむけ、かすれた声で囁いた。


「…否、今のは忘れてください。…口が過ぎました」


その顔は見えないが、耳が少し赤くなっている様な気がした。セイル?と呼びかけてみるが、彼はこちらを振り向いてはくれない。そうこうしていると、隣の方からやれやれ・・・と疲れ切った声がため息をついた。


「……セイル=ウォルディか。やれやれ、よっぽどウブなのかね。その様子じゃ僕たちの摂取の様子も見られたもんじゃないだろうに。それにしても悪かったよ、ルナ。アイツはヤキモチ焼きなんだ。邪険にしないでおくれ」

「分かった…次はドゥにしてあげる。でも少し躾ておいてよね」

「女王の命とあらば」

「これで帰るわね。こちらもちょっとヤキモチ焼きな吸血鬼を二匹待たせているの。資料ありがたく読ませて貰うわ…」

「マルガリータにはまた会うのかい?」


当たり障りのないようにトロアがさりげなく聞いてくる。ルナは軽くため息をついてから首をすくめて言った。


「………どうかしら。まさか貴方達が探ったって言う訳にはいかないでしょう。もう少しアリバイを当たるわよ。確かな確証を得てからでないと」

「……そうだね。僕達も困るし、何とかしておくれ。…ああ、君はそういうの手を出しづらいんだったっけ? 上の方々の常套句だよね、『能力者は能力を使って解決しろ』」

「……上のお達しでね。人の精神を傷つけない最良の方法だそうよ。でもまあ、探せなくもないけれど、ね…」

「好きにやりなよ。僕らはいつでも君の命に従おう」

「ありがとう……さて」


胸の前で右手を伸ばし、訓練された騎士の様にひざまずくトロアの耳元で囁き、驚いた蒼い瞳が瞬間にしてグレイに代わる。その瞬間にルナは唇を重ね、彼の息を止める程に吸うと、これでいいでしょ、とその片目を見つめた。大きく見開かれた瞳が恍惚の色に染まる。

そして鈍い音を立ててしまった入口の扉をぼうと見つめ、彼女に起こされたフォリ・ア・ドゥは恍惚の表情でゆっくりと呟くのだった。


「ルナ…やっぱお前は俺らの女神だよ…イイ女だ」






フォリ兄弟基本ご飯で生活出来ますが、悪喰故にそれではすぐ飢えるのでルナの精気をもらっている状態。万能ですが機動性に欠けます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ