表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/48

23.フォリ・ア・…?

「……急に出てくるのは反則ね、トロア」


その口調にしかし別段と驚きもしなかったので、ルナは冷静に彼―先程までフォリ・ア・ドゥだった者をチラリと見返した。見下ろしてくる彼のその瞳はいつの間にか蒼く変化している。彼はそしてゆっくりと口を開いた。


「ドゥだけに任せておくのは不安だったのさ。僕だって君と話がしたかったしね」


ニッコリと綺麗な笑みを作り、ウインクをする。その口調、その笑顔の作り方も先ほどとはまるで別人だ。




―フォリ・ア・ドゥ。2人狂い。

それは体内で彼が住まわせている魂の名前。ドゥが先程までの俺様な口調の人物、そしてこの丁寧な方がトロア。彼らにアンも―1人目もいたらしいがあえて聞くのは止めた。彼は―彼らは何かの間違いか一つの肉体に二つの魂が入った新人種―カテゴリーゼロのアンノウンだ。つまりは、今の世界では何処にも属さない異種である。彼らの情報収集能力はハイレベルで、これまでに世話になる事がしばしばあった。その対価―彼らが命の源とする精気をこちらが提供する、という契約で。まあ特に意識もしないと自分でもフォリと呼んでいるからどちらもフォリなんだけど。

手に持ったマグを唇に運んでコーヒーで喉を潤し、目を閉じる。フォリの事で話が逸れていたけれど、今はこっちが先決だ。


「つまり貴方達は―ドゥも含めてよ―彼女、マルガリータ・ブラントが祖先の復讐をしたいが為にこの事件を起こしたと言いたいの?」


同じ顔でも全く違った清楚な笑みを浮かべたトロアは、ソファに後ろ手をかけたまま、それに身体を預けて言った。


「……ドゥはそう言うよ。アイツの思考は単調だからね。でも、僕は違う気がする」

「というと?」


トロアは口元に笑みをたたえ、おもしろそうに目を細めながらこちらを見つめている。


「マルガリータは…発端にすぎないと思うんだ。彼女は自分の血が入らない息子を疎んじていたといったね。それもやはり今回の血筋云々に関わってくるんじゃないのかな。その資料見てみなよ。君の知っての通り、マルガリータとジョンが結婚する前に前妻がビルの屋上から落ちて死んでいる。当時夫だったジョンは事件当時アリバイが確認されて結局事件は事故として片づけられた。警察はしかし、当時のマルガリータまでは調べていなかった」

「当時の…マルガリータ」

「そう、彼女はジョンの行くバーのスタッフだった。彼と会ってからの彼女は少し様子がおかしかったというよ。当時よく彼の事を口にしていたという。彼の息子、ウイリアムが生まれてからバーを辞めた。その後彼の妻が死んだ。彼女に事件当時のアリバイはない。しかし警察は彼女を省いた」


ニッタリ、と絡みつく様な笑みを張りつけた彼は挑戦的にこちらを見据えた。


「こう考えたらどうだろう。ジョンにただならぬ思いを抱いていたマルガリータ。そして彼を手に入れたマルガリータは今度は前の妻の血筋が残る子供を消し去りたかった。妹は薬に溺れ、そして母は療養ホームで穏やかな死を待ち続けている。身体を毒で蝕まれた状態で」

「…そんな」


驚きを隠せないルナの瞳は零れおちそうな程に見開いていた。書類に目を落とし、次にマルガリータの項目の少なさに眉を潜めてトロアを見る。


「異端審問官の末裔殺し…その前妻もそうだったの?」


トロアは綺麗な笑みを張りつけたまま見つめてくるだけだった。


「いいや。彼女は教誨のシスターの末裔、ジョンは魔術師の家系だった。相容れぬ二人は結ばれるまでは苦悩しただろう。それでも彼らは結ばれ、一男一女をもうけた。…ルナ、改めて言っておくとね、彼女だけではない、よくデータを見ればいいが、そこに載っている人間のすべてが、人を殺す理由を持つ。理由を持つだけで人が人に何かをしうる可能性としてあり得ない事はないだろう? それはなにも一人に限った事ではないというのも」

「……そうね」

「後、おもしろい資料はそこに全て載っているよ。全部説明してもいいけれど、君は忙しいだろうから」

「目を通しておくわ」


データ化された資料を目で追いながら彼の話を聞いて、ルナはハーッと大きなため息をついた。しばらく顔を下げて思考し、再び彼を見上げるとありがとうと小さな声で礼を言った。


「大分、進めそうだわ」

「君の力になれて何よりだよ。それよりも謝礼が欲しいな…」


カツリ、とフォリの足音が近くに響き、白くそしてほどよい筋肉のついた腕が目の前に伸びて首筋に巻き付いてくる。それは艶めかしく動き、楽園の蛇にも似ていると思った。

ひざまずいたフォリ・ア・トロアが蒼い片目をこちらに向けてくる。深い海の様なダークブルーが触手の様に絡みついて反らす事を許さない。仕方ない、これも仕事だ。カインのキスに傷つく資格など所詮自分にはなかったのだ。なのに何故あんなにも動揺し、許せないと叫んだのだろう。自分だって似た様なものなのに。



ルナはため息をついて両手を相手の頬に伸ばして身をかがめ、フォリ・ア・トロアの唇に自分のそれを口づけた。




フォリ・ア・ドゥとフォリ・ア・トロア。互いに一つの身体を共有しているという設定。「現実世界で生きづらく精神世界に万能」な設定を目指したらそこに変態ヤンデレというマニアックなおまけがつきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ