KAGOME VS WAKABAYASI
ROUND1
KAGOME(second KOTANI)VS WAKABAYASI
fight!!
「俺たちをあまり舐めるなよ。探偵倶楽部」
新聞部部長若林は、座った足を組み直すと、かごめを睨みつけた。
勢い良く新聞部に乗り込んだかごめは、トリックの全てを打ち明けた。小谷もかごめをフォロ―しようと頑張るが、若林はトリックを認めるどころか、意にも介さない。若林の得体の知れないプレッシャーに、二人は部室の入口から、一歩も動くことが出来なかった。
「おい。聞いたか? お前ら」
若林は部室を見回すと、他の部員に問いかけた。
「幽霊は、俺たち新聞部が作り上げた、でっち上げだとよ。そんなこと言われちゃたまんねえよな? 探偵倶楽部ってのはあれか? よその倶楽部のやることに、そんなふうに、いちゃもんつけてまわってんのか?」
他の部員達は下を向き、記事に専念しているかのように、目をそらした。
「気に入らねえな。勘違いしてんじゃねえぞ。沢村」
若林は不快感を、全面に押し出してきた。
「穴だか印だか知らねえが、それを俺たちが空けたって証拠でもあんのか? そんなもん。それこそお前ら探偵倶楽部が、俺たちに記事を書かせないために、でっち上げたもんなんじゃねえのかよ。他に俺たちがトリックを使ったって証拠があるなら、今すぐ見せてもらおうか」
「この部室の何処かに、トリックに使った幽霊の人形があるはずです」
かごめは怯むことなく答えた。
「はあ? ねえよ、そんなもん」
若林は腕を組み、不敵に笑った。
「ついでにお前ら探偵倶楽部には、勝手に他の部室を家探しする権限もねえ。他に証拠がないなら、そのくらいにしとけよ沢村。それ以上騒ぎ立てようってんなら、俺たちだって黙ってねえぞ」
「そんな脅しには、乗りません」
かごめは負けまいと食い下がった。
「私はただ、亡くなったあかね先輩が、不憫でならないだけです」
「それが気に入らねえって言ってんだよ。俺には、幽霊が誰であろうと関係ねえ。だからこの記事を、無しにするつもりはさらさらない。お前らだって本来そうだろう? たまたま今回の記事になった幽霊が、知り合いだから納得いかないって話じゃねえのか?」
「そんな……」
「全く知らない。見ず知らずのヤツの為なら、ここまでやったか? そういうのはな、偏った正義って言うんだ。そんな自分勝手な偽善が通る程、世の中甘かねえんだよ!」
「……」
若林の言うことも一理ある。もしこの幽霊が、知り合いでもなんでもなかったとしたら、果たしてここまでやっただろうかと、かごめは自問自答するのであった。
「言い返す言葉もないか? 俺たちだって、いつまでもお前らの与太話に付き合ってられるほど暇じゃねえ。帰ってテスト勉強だってやらなきゃならねえ。自分の立場に気づいたんなら、とっとと帰れ。はっきり言って、大迷惑だ!」
うつむくかごめの隣で、見かねた小谷が口を開いた。
「若林、それは言い過ぎってもんだろう。少しは、かごめちんの気持ちも汲んでやれ」
「小谷……俺だってなにもお前の知り合いに、こんな事言いたかねえよ。だがな、証拠もないのに悪者扱いされて、へらへら笑ってられる程、お人好しでもねえんだよ」
そう言うと、若林はそっぽを向いた。
「若林、自分じゃ気づいてないだろう? 俺がこの部室に来て一度だって、お前は俺と目を合わしてない」
「……」
若林は言われてもまだ、小谷から目をそらしたままだった。
「やましいことがないなら、もっと堂々と反論したらいいだろう? そんなチンピラみたいな事ばかり言って、逃げ口実にしか聞こえない」
「小谷……どうしたよお前?」
若林は、クククッと笑い出した。
「幽霊を見たときは、あんなに喜んでたじゃねえか。夢だったんだろう? 幽霊を見るのが。お前は興奮して震えてた。なのにっ! ちょっと大崎に何か吹き込まれたくらいで、もう自分が見たものを疑ってんのかよ。お前だってミステリー研究会の部長だろ? 簡単に考え変えやがって、情けねえとは思わねえのか?」
「お前の言う通り、幽霊をこの目で見るのは、ガキの頃からの夢だった。俺だって、この幽霊が本物だったら、どんなに嬉しいことか……」
「だったらこれ以上、探偵倶楽部に肩入れすんのはやめろ」
「大崎は今まで、推理を外したことがない」
「じゃあ小谷。お前は俺より、根拠の無い大崎の推理を信じるって言うんだな?」
「……」
「どうなんだ小谷? 回答によっては、お前との今後の付き合い方を、考えさしてもらうぞ」
追い詰められる小谷の横顔を、かごめは正視した。小谷は苦しそうに、眉間に深くシワを寄せていた。
「そんなんじゃない。俺は、大崎を信じているが……お前のことも信じてる」
「お前、なに矛盾したこと言ってんだ?」
「俺は……自分の目を、疑い始めてる」
「なに?」
「俺は、大事な友達を泣かせてまで……。この幽霊を、本物にしたいとは思わない!」
小谷はそう言うと、不安そうなかごめ見て、ニッコリと笑った。
「小谷さん……」
かごめは、小谷の優しさに、思わず涙が出そうになった。
「俺をだしに使ったとしたら、気分は良くないが、今更そんなことで怒ろうとは思わない。
今までこの学園の生徒達から、気にもかけて貰えなかった新聞部の記事が、躍進するチャンスなのは俺にもわかる。だが、この記事を読んで悲しむのは、かごめちんだけじゃない。せめて斎藤あかねの名前だけでも、伏せてやってくれ。頼む若林。この通りだ」
そう言うと小谷は、若林に頭を下げた。
「私からも、お願いします」
かごめも一緒に頭を下げる。若林は舌打ちすると、天井を仰ぎ見た。
「ったく。めんどくせえ連中だぜ……。わかったよ。斎藤あかねの名前は伏せてやる。ついでに、この幽霊は斎藤あかねではないと、一言添えてやってもいい」
「え? それは本当ですか!?」
「いいとこあるじゃねえか若林!」
小谷とかごめは、やったとばかりに喜びあった。
「ただし、沢村に条件がある」
若林の眼光が鋭く光った。
「条件?」
「こんなことをしても、俺たち新聞部には、なんのメリットもない。見返りが欲しい」
「それは、どんな見返りですか?」
「うちに来い。沢村かごめ」
喜んだのも束の間、かごめは言葉を失った―――。
それを聞いた小谷が、若林に激怒した。
「若林てめえ!? かごめちんを家に連れ込んで、いやらしいことしようとしてんじゃねえぞ! お前のフィギャアだらけの恥ずかしい部屋なんか、見せられたもんじゃねえだろ!」
「へ? ふ、ふ、ふざけんな小谷!。沢村を家に連れ帰ってどうすんだよ! しれっとフィギャアとか言いやがって、部員が勘違いすんだろうが!」
「違うのか?」
「俺は、新聞部に来いって言ったんだ」
「私に、探偵倶楽部をやめろって言うんですか?」
「そうだ。俺はお前の能力を高く評価してる。根性もある。このまま探偵倶楽部に置いておくには、惜しい人材だ。俺が一から指導すれば、お前は立派なジャーナリストになれる」
若林はデスクの中から一枚の紙を取り出すと、かごめの足元に放ってよこした。
「入部届けだ。自分で拾ってサインしろ。なんなら、この記事自体、初めから無かったことにしてやってもいい」
「え?……。本当に、サインしたらこの記事を、取りやめにしてもらえるんですか?」
「約束は守る。お前の選択は二つに一つ、俺の気が変わらないうちにサインしろ」
かごめは入部届けを、震える手で拾い上げた。
「よせ!かごめちん!」
小谷が咄嗟にかごめの腕を掴んだ。
「邪魔をするな小谷。俺は沢村とサシで話をしてる。お前は引っ込んでろ」
「小谷さん。手を離してください」
小谷はかごめに言われ、しぶしぶ手を離した。
「早まるな、かごめちん。今に大崎が、証拠を持ってやってくる。若林はただ、探偵倶楽部が気に入らないだけだ。大崎を信じろ!」
若林はそれを聞いて笑い出した。
「大崎? そういえば居たなあ。そんな奴が。で? 大崎はなぜ来ない? どうせお前らに適当な推理をぶちかまして、証拠がないもんだからトンズラこいたんだろう? 沢村、そんなヤツに義理立てしてどうする? お前にとって悪い条件じゃないはずだ。さっさとサインして、一件落着といこうじゃないか」
かごめは入部届けの紙を両手に掴むと、真っ二つに破り裂いた。
「てめえ沢村……自分が何をしたかわかってんのか?」
そう言って若林は、入部届けを破り捨てたかごめに凄んだ。
「大崎部長は、あなたが言うような、何もせずに逃げ出す人じゃありません。このお話は、お断りします」
「そうか……。よくわかった」
若林は頷くと、近くにいた部員に指示を出した。
「記事に、この幽霊は斎藤あかねに間違いないと、デカデカと入れろ」
「そんな! ひどすぎます!」
「若林!お前まだそんなこと―――」
あかねと小谷が抗議するも、若林はあざ笑った。
「当然だろう? 沢村は、俺が出した条件を蹴飛ばした。文句を言われる筋合いはねえ。そもそも、俺たち新聞部がどんな記事を書こうと、それを読んだ奴が、どう思おうが自由だ。これが報道の自由ってやつだ。これで終わりだと思うなよ? 探偵倶楽部。次はお前らの記事を書いてやる。あることないこと書き出して、この学園から目障りな探偵倶楽部を、消し去ってやるよ!」
「あなたって人は!……」
かごめは悔しさのあまり、唇を噛み締めた―――。
やはり若林は、一筋縄ではいかなかった。負けるな探偵倶楽部!!