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最後の難関

「まずいな……」

ついにトリック見破った大崎レイだが、さらなる問題が浮上する―――。

「元木先輩?……」


かごめの声を聞き、小谷も元木の存在に気がついた。


「元木?」


こちらに近づいてくる元木の顔が、かごめの目には、以前よりずっとやつれたように見えた。


「小谷、若林に聞いたよ。お前も、あかねの幽霊を見たんだってな?」


うつろな目をした元木の声は、とてもか細かった。


「え? ああ、見たことは、見たんだが……これは、どうも……そうじゃないかもって言うか……その……」


小谷は歯切れ悪く口ごもる。


「元木先輩」


「ん?」


かごめが声をかけると、まるで初めて気づいたかのように、元木は顔を向けた。


「沢村……。お前も、あかねに会いに来たのか?」


幽霊が斎藤あかねだと信じきっている。微塵も疑っていない。そんな問いかけだった。


「あかねには、会えたか?」


「え?……あの……」


「あかねは、俺のことを、何か言ってなかったか?」


もう耐え切れないと言ったように、かごめは首を横に振った。


「これは、違うんです」


「違う? 何が、違うんだ?」


元木は、わけがわからないといったふうに、首を傾げた。


「幽霊は‥…。新聞部のトリックなんです」


「え?」


「だから幽霊は、あかね先輩ではないんです」


「沢村、何を言ってるんだ? そんなわけないだろう。幽霊はあかねだよ」


元木は少し笑うと、かごめの横を通り過ぎ、用具室に向かった。


「本当に違うんです! 私達は、トリックを見破るためにこうして―――」


「余計なことすんなよ!?」


元木の叫び声が、体育館にこだました。元木は興奮し、肩で息をした。


「余計なこと、するなよ……」


「元木先輩……」


「どうしても、俺はあかねに会わなきゃいけない。頼むから……邪魔しないでくれ」


元木はそう言うと、一人静かに、用具室に入って行った―――。


かごめは、元木が用具室の扉を閉めると、うつむいて拳を強く握った。


「ゆるせない……」


目には涙が溢れ、握った拳が、わなわなと震えた。


「ゆるせない……!」


かごめは踵を返すと、体育館入口に向かって走り出した。


「待て! かごめくん!?」


大崎は声を上げたが、かごめは止まることなく体育館から姿を消した。


「かごめちん……あんな急いで。そんなにトイレを我慢してたのか……」


「そんなわけないだろ!? 空気読め! このカバゴリラ!」


「カバゴリラってなんだよっ! あれか? カバラ○オンとブタゴ○ラのあいの子か?」


「新聞部に行ったに決まってるだろう」


「なに? 新聞部だと? わかってるんなら、なぜすぐにかごめちんを追わない?」


大崎は大きく息を付いた。


「追いたくても証拠が無い」


「証拠ならあるだろ。トリックはもうわかってるんだ。だったら後は、新聞部の連中を追い込んで、吐かせるだけじゃねえのか?」


「壁とポスターに空いた穴や、バツ印を突きつけたところで、吐かせる証拠としては薄すぎる」


「まずいって言ったのはそのことか。若林のことは俺もよく知ってるが、学園じゃ有名な曲者だ。悪知恵も働くし、頭もいい。あいつには、浪花節も通用しない。だから俺は、最初から無駄だって言ったんだ。なのに、かごめちんもお前も、人の話を聞きもしないで冷静さを失いやがって」

「今はそれどころじゃないだろう。僕も証拠を見つけたら、すぐに駆けつける。だから、先にかごめくんを追ってくれ」


「ったく。わかったよ大崎。あいつを落とすには、強力な武器が必要だ。お前にできなきゃ誰にも出来ない。待ってるからなっ」


小谷はそう言うと、ドタドタと足音を響かせながら、かごめの後を追った。


大崎は小谷が居なくなると、どうしたものかと思案した。ステージ下は、証拠を探す程の広さは無い。バツ印以外何も無いのはひと目でわかる。問題の用具室には、入ろうにも元木がいる。彼が快く協力してくれるとは思えない。


「どうしたらいい? 考えろ。きっといい手があるはずだ……」



「大崎せんぱーい」


体育館に、ひと組のカップルが、大崎に手を振りながら入ってきた。


「お久しぶりです。大崎先輩」


女子生徒がそう言ってペコリと頭を下げた。男子生徒も控えめなお辞儀をした。


「君たちは……? おかしい。顔は覚えているのに、名前が出てこない」


「仕方ありませんよ。だって前回私たち、名前がありませんでしたから。生徒会長の妹と言ったら、思い出しますか?」


「ああ。あの前回の依頼者か。もちろん覚えている」


「ところでどうしたんですかその制服? ズボンも、膝の辺りが真っ黒ですよ」


「え?」


大崎はその時、自分の制服が埃で汚れていることに、初めて気がついた。


「全然気づかなかった……」


「宝探しでもしてたんですか?」


女子生徒は、扉の開いたステージ下を覗きながら尋ねてきた。


「まあ、そんなところだ……」


そう言って大崎は、適当に相づちを打った。


「向井くんも、宝探しをしてたのかなあ?」


「向井くん?」


「廊下ですれ違った時、向井くんも大崎先輩のように、膝の辺りが真っ黒でした」


大崎は、聞き覚えのあるその名前に、即座に反応した。


「向井くんというのは、もしかして新聞部の向井くんのことか?」


「はい。若林部長は人使いが荒いって、いつも愚痴ってますから、その向井くんで間違いないと思います」


「向井くんを見かけたのはいつだ?」


「一時間くらい前でしょうか。ダンボールを持って忙しそうにしてました」


その時大崎の脳裏を、何かが駆け巡った。


「君にもう一つ聞きたい」


突然大崎に両腕を掴まれ、女生徒は目を丸くした。


「向井くんは右利きか? それとも左利きか?」


「え? どっちかな? えっと……」


「右利きです」


今まで居るのか居ないのかわからないほど大人しかった男子生徒が、急に言葉を発した。


「間違いないね?」


大崎はもう一度確かめると、男子生徒はコクンと頷いた。


「ありがとう。君達のおかげでなんとかなりそうだ!」


「え? なんのことですか?」


「そこの扉を閉めておいてくれると助かる。それから、生徒会長のお姉さんによろしくと伝えておいてくれ。それじゃあまた」


「え? ちょっ、ちょっと、待ってくださいよ。大崎せんぱーい」


大慌てで体育館を後にする大崎を見て、残された二人は不思議そうに、顔を見合わせるのだった―――。


新聞部対探偵倶楽部!全面対決勃発!!

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