交差する光
「大手柄だ。かごめくん」
ついに大崎レイの推理が炸裂する!
「かっこつけてないで、さっさと説明しろ」
小谷は、じれたように大崎に詰め寄った。
「では説明しよう。こちらに来てくれ」
大崎は体育館へ二人を促すと、ステージ下の物置を指差した。
「トリックを仕掛けたのはこの中だ。普段は集会なんかで使うパイプ椅子がしまってあるが、今は何も入っていない。高さ奥行はステージ下ということもあり、せいぜい一メートル。非常に狭いが、四つん這いになれば入れないことはない」
大崎はしゃがみ込むととペンライトで床上を照らした。
「先ほどの実験で、ステージ下の右の壁と、用具室の板壁の穴が貫通していることは解ったはずだ。ステージ下の床上に、黒いマジックで書かれた×印があった。これは幽霊の人形を置くための目印だ」
「あの幽霊が人形? 何馬鹿なこと言ってんだ大崎」
小谷は納得いかない様子で反論した。
「ステージ下の人形をどうやって隣の部屋に映すんだ? 壁に穴が空いているとはいえ。お前の言ってることはめちゃくちゃだ。映写機を使いましたって方が、まだ真実みがある」
「小谷。君は、カメラオブスキュラを知っているか?」
「なんだそりゃ?」
「オブスクラとも言う。意味は暗室だ」
「簡単にやれるものなのか?」
「原理は原始的で単純だが、実際屋内でやるとなると、それなりの準備と工夫が必要になる」
「どうしてポスターに穴が空いていたんでしょうか? 壁の穴を隠すためだけに、ポスターを貼ったわけでは、ないということですか?」
「いい質問だ、かごめくん。穴が大きすぎると、像を壁に結ぶことは出来ない。針穴くらいがベターだと言われてる。しかし、板壁に針穴を開けるには、特殊な器具も必要だし困難だ。そこで若林は、まず壁に大きめの穴を空け、その上にポスターを貼る。あとは裏側の穴から針を差し込み、穴を開ける。つまりピンホールを作るために、ポスターを貼ったということになる」
「そんな小さな穴で、幽霊を表現したと言われても、なんだか信じられません」
「小さな穴から光とともに外の景色を取り込む。その景色は、暗室の反対側の壁に、逆さまに映し出される。かつてレオナルド・ダ・ヴィンチの残した手稿にも書いてある。まずは写したい被写体を明るく照らさなければならない。幽霊の人形を穴の前に設置して、四方からライトか投光器などで光をあてる。明るければ明るい程、被写体の像は鮮明に壁に写しだされる。書かれたバツ印は、被写体を写すのにもっとも効果的な位置なのだろう」
「若林部長なら、幽霊の人形くらい簡単に作れるかもしれませんね。でも、幽霊が消えたり現れたりと言うのはなんとなくわかりますが、移動させたりも出来るわけですか?」
「またまたいいところに気がついたね。君の言うとおり、これだけではまだこのトリックは成立しない。まず幽霊が現れた高さ。穴の位置は床上四十センチ。穴から出た光は真っ直ぐ走り、跳び箱側面にあたる。幽霊は、天井付近には映らない。そこで新聞部員、沖田の行動が重要になる」
「なに? ビビリの沖田が仕掛け人だったっていうのか?」
「沖田は尻餅を付いたふりをして、ポスターの穴から僅かに漏れる光を塞ぐ。後は手鏡を使って、光にあて、壁に写るように角度を変えて悲鳴を上げた。移動も簡単に出来る。それからもう一つ、幽霊の像は肉眼では確認できるが、写真に撮るとなると、どうしても暗くなる。おそらくステージ下の仕掛け人は、被写体にカメラでフラッシュをあてた。瞬間的だが幽霊をはっきりと写すことができる。消えたり現れたりしたのは、そのためだろう」
大崎の説明を聞いて、かごめはようやく納得したように頷いた。
「テスト前日、学園の生徒はほとんど残ってません。部活もないし、体育館に来る生徒も少ない。新聞部にとって今日は絶好の、仕掛け日よりだったんですね」
「そうだ。小谷を連れてくる前に、すでにある程度の準備は整っていたはずだ。外に残った新聞部部員は三人。一人がステージ下に潜り込み仕掛けをし、残りは見張り役。写真を撮り終わったら、素早く片付け仕掛けに使った道具を持ってその場を去ればいい。そこで小谷に質問だが、体育館に出た時、新聞部員は何人いた?」
「え? どうだったかな? 幽霊を見た後は、興奮しちまってて、全然覚えてねえ」
「その写真は、どこで受け取った?」
「これは教室で待ってた俺に、若林が自分で届けに来た」
「そうか……。まずいな」
大崎は顎に手を当てると、もう一度ステージ下を覗き込んだ。
「何がまずいんだ?」
小谷がそう大崎に問いかけたとき、かごめは一人の男子生徒が、体育館に入って来たことに気がついた。それはかごめもよく知っている。亡くなった斉藤あかねの彼、元木智也だった。
後半戦に突入!