生徒会ポスター
なんとか手がかりを掴もうと、体育用具室を探索する一行。そんな中、ついにかごめが何かに気がついた。それは、捏造を暴く糸口になり得るのだろうか?
ポスターには[使った用具はきちんと片付けましょう。生徒会美化委員]と、おおきな文字で書いてある。
「かごめくん。このポスターがどうかしたのか?」
「私の記憶が正しければ、このポスターは扉の内側に貼って在りました」
大崎は扉の内側に近づいた。
「テープを剥がした跡がある。誰かが移動させたということか……」
「わかったぞ!?」
小谷は何かひらめいたのか、大きな声を上げた。
「どうした小谷?」
大崎は目を丸くして尋ねた。
「きっと、このポスターの裏に、俺が見た幽霊の絵が書かれてる!」
「なに?」
「そしてその絵を使って、……使って、その……なんだ? 紙飛行機みたいに飛ばしてだな。ああ、あれだ。いや、違うな。だから……その絵をだな……?。かごめちん、俺の代わりに説明してくれ」
「知りませんよ! どうして私に振るんですか!」
「いや、なんとなく……」
「だいたい紙飛行機とか、どう説明させるつもりですか!」
「俺にもわからん」
「もう!わからないなら黙ってて下さい!」
「すまん」
小谷はかごめに怒られ小さくなった。
「そんな証拠を、若林が残すとは思えないが……」
大崎は少し考えた後、ハッとした表情で小谷に顔を向けた。
「小谷。そのポスターを剥がしてみてくれ」
「な、なんで俺が? 俺は嫌だ。あの鬼の生徒会長を敵に回したくない!」
「ちょっと剥がして見るだけだ。部室も与えられて無いお前が、今更失うものなんて何もないだろう?」
「非道いこと言うなよ。泣きたくなるだろ?」
小谷は大崎の言葉に涙ぐんだ。
「ほんとに泣くやつがあるか。わかった悪かった。もういい、僕がやる」
仕方ないとばかりに大崎はポスターに近づくと、止めてあるテープを慎重に剥がし始めた。
「気をつけろ大崎。少しでも破いたら大変なことになるぞ」
「おおげさなやつだな。よし、取れた。かごめくん、このポスターを持っていてくれ」
「わかりました」
かごめはポスターを受け取ると、剥がした辺りを覗き見た。
「部長。何かありますか?」
続けて小谷も覗き込む。
「何もないじゃないか。空振りだったな大崎」
階段側面の壁は、木の板を貼り合わせた木製だ。大崎は丁寧に、ルーペで木目を観察した。
「穴がある」
「穴?」
大崎は、床上四十センチくらいにある、板に空いた小さな穴を指差した。
「一見、釘を打って抜いた穴にも見えるが……」
大崎はペンライトで穴を照らした。
「まさか……この穴は。……! かごめくん! もう一度そのポスターを見せてくれ!」
「え? あ、はい!」
かごめは何事かとびっくりしながら、ポスターを広げて見せた。
大崎は念入りにポスターにルーペを這わせる。
「……やっぱり。そういうことか。君たちはここに居てくれ!」
大崎は急に立ち上がると、体育館へと飛び出した。
「おい、どこ行くんだ! 大崎! ……なんだアイツ。俺には何が何だかさっぱりわからん」
「わからないのはいつもの事です」
かごめはポスターをくるくると巻くと、階段に置いた。
「小谷さん。先程部長と、私の話をしてましたよね?」
「あ、やっぱり、聞こえてたのか……」
「私も部長と同じで、心地のいい関係を望んでます。ずるいのは私の方です。だから、大崎部長を、あまり責めないでください」
「かごめちんは、それでいいのか?」
「私は……。急いでませんから」
かごめはそう言って微笑んだ。しかし小谷には心なしか、かごめが無理に笑ったように見えた―――。
「おい! 二人共そこにいるか? おーい。いないのか? いるなら返事をしてくれ」
「ん?」
何処からか、かすかに大崎の声が聞こえる。しかし、姿が見当たらない。小谷とかごめはキョロキョロと辺りを見渡した。
「どこだ、大崎?」
「ここだ。僕はここにいる」
コンコンと大崎は壁を叩いてみせた。
穴がある辺りで音が響いた。小谷はしゃがみ込むと、穴を覗いた。
「穴の向こう側にいるのか? そこはどこだ大崎?」
「ステージ下の物置だ。小谷、これから実験をする。電気を消して、壁を見ていてくれ」
「え? わかった」
小谷は慌てて用具室の電気を消した。また先ほどのように、室内が暗闇に包まれる。
「消したぞ大崎」
小谷とかごめが見守る中、幽霊が現れた辺りに、ぼんやりと薄暗い光が見え始めた。
「なんだ? ペンライトの光か?」
光はほどなく消え、用具室の扉が開け放たれた。
「大手柄だ。かごめくん」
大崎に褒められ、かごめは嬉しそうに胸の前でガッツポーズを作った。
「トリックがわかったんですね! 大崎部長!」
「そうだ。これは光を使ったトリックだ」
「光のトリック?」
「真っ暗な体育用具室。板壁に空いた穴。そしてポスターにも、針を刺したような小さな穴が空いていた。ステージ下の床上には、マジックで書いた×印もあった。僕の頭の中では、八割方解決してる」
大崎はそう言うと、ニヤリと笑った―――。
大崎の推理がついに炸裂!