探偵倶楽部
「お前に一つ、聞いておきたいことがある」
大崎が振り返るとそこには、何時になく真剣な小谷の顔があった。
「かごめちんのことを、どう思ってる?」
「なんだ? いきなり唐突だな。かごめくんは探偵倶楽部に欠かすことの出来ない優秀な人材だ。実際かごめくんには、かなり助けられてる」
「とぼけるなよ大崎。俺がこんなベタな質問をしたのは、そんなベタな返しが欲しかったからじゃねえ。カゴメちんのことを女としてどう見てると聞いてるんだ。俺はかごめくんが好きだと、素直に言ったらどうだ?」
「なっ! ば、ばっ、馬鹿か君は! こんな状況で何言ってる! お泊り会じゃないんだぞ!」
「好きでも無ければ、そんなアホ丸出しの反応なんてしねえよ。いい加減認めたらどうだ?」
「認めるも何も、君には関係ないだろ……」
「ああ、関係ないね。俺はむしろ、かごめちんとお前みたいなムッツリスケベのエロガッパが付き合う事には大反対だ。こっぴどくフラれて、燃えるゴミの日に生ゴミと一緒に捨てられればいいとさえ思ってる」
「むちゃくちゃ言うな! まさか小谷、君は……かごめくんの事が……」
「そんなんじゃねえ。俺は自他共に認める学園一のナイスガイだし、かごめちんもそう思っているだろうが、俺に振り向くことは無い。俺はそんな相手を好きにはならない」
「また自分勝手な通り名を……」
「どういう訳かはわからない。学園最大の謎と言ってもいい。全く納得いかないが、間違いなく、かごめちんが見ているのはお前だけだ」
「かごめくんが、僕のことを?……小谷。それは、かごめくんに聞いたのか?」
「いや。はたから見てればわかる。多くは俺の感だがな」
「感? だったらわかるものか」
「気づいてないのはお前くらいだ。お前はかごめちんを女として見てないのか? 今日、来なくなったら寂しいか?と聞いたかごめちんの質問に、お前は何も答えられなかった」
「それは……。ってか、なんで小谷がそれを知ってる。立ち聞きしてたのか?」
「立ち聞きじゃねえ。たまたま部室のドアの前に来た時に、聞こえただけだ。お前がくだらないギャグを言ったときは、笑いをこらえるのに苦労したがな」
「ギャグって……もっと最初の話だろ! それを立ち聞きと言うんだゴリラ!」
「話をそらすな大崎」
「そらさしてるのは君だろ」
「かごめちんはとてもいい子だ。この学園一のナイスガイが言うからには間違いねえ。俺はかごめちんの味方だ。お前はかごめちんの気持ちを、このまま無視し続けるつもりか? いくら恋愛に関して鈍感なお前でも、ここまで言えば俺の言いたいことくらいわかるだろ?」
「……」
「もし、お前にその気がないのなら、かごめちんにおかしな期待をさせるなって言ってるんだ」
「……」
「お前のダチとして聞いてるんだ。正直に答えろ大崎」
大崎は大きくため息をつくと、静かに語りだした。
「君も知ってるだろうが……。一年前の探偵倶楽部は、今と違ってそれなりに人がいた」
「ああ、そうだったな」
「だけどそのうち、一人、また一人と部を去っていく。辞めたければ辞めればいいし、一人になったところで寂しくはない。当時は、それでも構わないと思ってた」
「大崎の変人ぶりに付いていけなかったんだろうな」
「くっ……」
「悪い。続けてくれ」
「とうとう、かごめくんと二人だけになった時、僕はかごめくんに言ったことがある。もし僕に同情して、部を辞めないでいるのなら、君の為にはならないと。その時、かごめくんは涙を流した。なぜかごめくんが泣いたのか、理解できなかった。僕はひどいことを言ってしまったのかも知れない。もう彼女がこの部室に来ることは無いだろう思った」
「……」
「ところが、かごめくんは辞めるどころか、毎日部室にやって来た。忙しい日も、顔だけは必ず出して帰る。何時の間にか、部室にかごめくんが居ることが、当たり前になってた……。小谷の言う通り、僕はかごめくんを、女として意識しているかも知れない。かごめくんがいなくならないのをいいことに、甘えているのかも知れない。でも僕は、彼女との心地いい関係が、いつまでも続く事を望んでる……」
「大崎……」
「それは、そんなにいけないことなのか?」
それを聞いて小谷はクククと笑った。
「心地のいい関係か……。そんなこったろうと思ったぜ」
「まさか小谷に、そこまで見抜かれていたとはな。ミステリー研究会なんてやめて、恋愛研究会でも始めたらどうだ?」
「すでに兼任してる」
「マジ?」
「恋愛研究会の会長として、一つお前に忠告しておく。約束ごとのない男女関係は、長くは続かない。お前が思っている以上に、簡単に破綻する。よく覚えとけ」
永遠には続かない。まして卒業すれば、嫌でも壊れる。小谷の忠告は、大崎にとって耳の痛い話だった。
「あのう。ちょっといいですか?」
突然かごめに後ろから話しかけられ、二人はギョッとして振り向いた。
「い、いつからそこに!」
「私、たった今、一つ気がついたことがあります」
「本当か、かごめくん!」
「このポスターです」
かごめは階段側面に貼ってある、画用紙のポスターを指差した。
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